2025年12月10日、東京国際フォーラムで「Hitachi Vantara Exchange Japan 2025 ─AI時代のデータ変革 事業価値を最大化し、未来を拓く1日」(主催:日立ヴァンタラ)が開催された。日立ヴァンタラ 代表取締役 取締役社長・島田朗伸氏による基調講演の他、同社のAI分野の最高技術責任者ジェイソン・ハーディ氏とエヌビディアでAIを活用したアプリケーション開発をリードするスコット・ヌンヴァイラー氏による対談、レッドハット常務執行役員・三木雄平氏と、日立ヴァンタラのハイブリッドクラウド事業本部 本部長・伊東隆介氏、主管技師長・武田貴彦氏によるパネルディスカッション、経済産業省「DXレポート」を取りまとめた和泉憲明氏、今治.夢スポーツ代表取締役会長・岡田武史氏による特別講演など、各分野の専門家やビジョナリーリーダーが登壇。不確実性の高まる時代に企業が事業価値を最大化するための戦略と具体的な行動について、知見を共有した。本記事ではイベントの要点をひもといていく。

 AI時代のデータ変革をテーマにしたカンファレンス「Hitachi Vantara Exchange Japan 2025」。日立ヴァンタラの島田朗伸氏が開会のあいさつに立ち、本イベントは幕を開けた。

 島田氏は、日立ヴァンタラが日立製作所のコンピュータとストレージ事業をルーツとしており、2024年に分社化し、グローバル一体運営体制に移行したという沿革を説明。日本のものづくり技術とシリコンバレーの最先端技術の採用を強みに、数々の製品・サービス・ソリューションを提供していることを紹介した。

日立ヴァンタラ 代表取締役 取締役社長 島田朗伸氏

生成AIを「武器」ではなく「戦略」として位置づける

 続く1つ目の基調講演では、経済産業省で「DXレポート」を取りまとめ、現在はAIST Solutions Vice CTOの和泉憲明氏が「データとAIで描く日本企業の成長戦略 ─ 競争優位を再設計するビジョン」と題し、生成AIの活用を前提とした全社変革の必要性を強く訴えた。

AIST Solutions Vice CTO(元経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長)和泉憲明氏

 和泉氏は、「近く到来するデジタル時代ではAIとそれを支えるデータインフラなくして企業の存続はあり得ない」と断言。経営者は社会変革の方向性を捉えながら企業競争力を設計し直す必要があり、DXの停滞を打破するためには、攻守を峻別しない総合的な戦略設計が不可欠だと論じた。

 特に生成AI時代においては、「DX推進の成否を分けるのは、業務自動完結というゴールを明確に描けるかどうかだ」と指摘し、人が関与せずに業務プロセスが完結する状態を具体化できなければ、個人のAI活用能力は決して企業の競争力へと昇華しないと警告した。

「生成AIが組織に与える影響は長篠の戦いに例えることができます」と和泉氏。武田軍が従来の騎馬隊を主軸に鉄砲を“補助的”に使ったのに対し、織田軍は鉄砲隊を前提に戦術そのものを組み替えた。結果は明白で、この歴史的事例は、新技術を既存の延長線で扱う企業と、技術を起点に戦略を再構築する企業との決定的な差を象徴していると指摘した。

「生成AIは鉄砲です。問うべきは『今のビジネスに使えるかどうか』ではありません。生成AIを前提に、事業・組織・意思決定の在り方をどう再構築するのかです」と和泉氏は強調し、未来を切り開くのは生成AIそのものではなく、それを前提に舵を切る経営者のビジョンと意思決定であると結論付け、生成AI時代における競争優位性の再設計を強く提言した。

AIの価値を最大化するデータ管理のサイクル「貯める」「使う」「守る」

 2つ目の基調講演「Data Foundation for Innovation ─ データの力で未来を拓く」では再び島田氏が登壇し、経営視点からのデータインフラ戦略の重要性を説いた。36年間、データインフラストラクチャービジネスに携わってきたという島田氏は「約10万年前に言語が生まれ、約5000年前に文字が生まれ、石板に刻みはじめたことで、人類は自らの知識を時空を超えて共有できるようになり、社会システムを発展させることができました」と述べた。

 そして、データ量が人間の処理能力を超える今、「AIは、人間に代わってデータを読み解く『新たな学び手』である」とし、その活用には強固なデータ基盤が不可欠であると説いた。

 島田氏によると、AIの力を最大限に引き出すデータ管理のポイントは「貯める」「使う」「守る」の3点。「貯める」では具体的な導入事例とともに、最新の圧縮機能による高効率なデータ保持や高品質サポートが高く評価された点を強調した。「使う」については、自社のサプライチェーン管理におけるAIとデータの活用事例を紹介。「日立ヴァンタラでは、製品の調達から販売・サポートまでの各工程でデータを連携し、データとモノの実態が常に一致した状態で管理しています」と述べ、予備在庫コスト40%削減などの成果を挙げた上で、「データを正しく『使う』ことで、事業全体の効率化と品質向上を格段に進めることができたと自負しています」と語った。

「守る」については、サイバー攻撃対策として物理的隔離・エアギャップを提唱する。「ホストシステムから論理的・物理的にアクセスできない領域にデータを隔離して保存します。ハードウエアベースでの完全にクリーンなバックアップは、企業の最終的な砦として重要な役割を果たします」と述べた。

 最後に島田氏は、「人類は言語と文字によって知を継承してきました。現代、その役割を担うのがデータ基盤です。データを正しく『貯め』、賢く『使い』、そして確実に『守る』。このサイクルを確立することで、AIの力を最大限に引き出し、社会に真のイノベーションを起こすことができます」と締めくくった。

データのある場所で輝くAIという「自律的な労働者」

 続くセッションではHitachi Vantaraのジェイソン・ハーディ(Jason Hardy)氏とエヌビディアのスコット・ヌンヴァイラー(Scott Nunweiler)氏が登壇し、「Agentic AI Revolution: From Autonomy to Impact(エージェント型AI革命:自律からインパクトへ)」と題して、エージェント型AIについて議論を深めた。

NVIDIA Sr. Director, Solution Architecture and Engineering Scott Nunweiler氏

 ヌンヴァイラー氏は、現代を「インテリジェンスを製造する時代」と定義。従来の生成AIが「回答」を提示する段階だったのに対し、現在のエージェント型AIは推論モデルにより自ら論理的に問題を解決し、ツールを駆使して実行・検証まで行うレベルに達したと指摘した。

 これに対しハーディ氏は、AIを単なるチャットツールではなく「自律的な労働者」であると定義。日立グループの鉄道やエネルギー分野での実例を挙げ、リアルタイムなデータ処理が現場の安全性や予測精度を劇的に高めている現状を共有した。

Hitachi Vantara Chief Technology Officer for Artificial Intelligence Jason Hardy氏

 また、エージェント型AIを支えるインフラを考える上で必要なのは「データを移動させるのではなく、AIをデータの場所へ持っていく」ということだとハーディ氏は語る。エヌビディアの技術を統合したAIインフラソリューション「Hitachi iQ」の優位性を強調した。

 これにより、データの遅延を最小化しつつ、データの経時的変化を追跡する機能などで高度なガバナンスを実現しているという。また、両氏は日本独自の言語・文化を守るソブリンAIの重要性についても触れ、独自のインテリジェンスを国内で育成・保持する重要性を再確認した。

 最後に、AI投資を成功させるための実践的な知見が示された。ヌンヴァイラー氏は、エヌビディアなどが提供する既存ツールを活用し、ゼロから開発しないことを推奨。ハーディ氏は「海を沸かそうとするな」と語り、まずは身近な課題から着手し、パートナーと共に一歩ずつ価値を積み上げていくことが重要と結論付けた。

データ経営を支えるオープンハイブリッドクラウド

 パネルディスカッション「データが経営を動かす:ハイブリッドクラウドで築く未来の競争力」では、レッドハット常務執行役員 技術営業本部 本部長の三木雄平氏、日立ヴァンタラのハイブリッドクラウド事業本部 本部長・伊東隆介氏、モデレーターとして日立ヴァンタラ主管技師長の武田貴彦氏が、データ経営のためのハイブリッドクラウドの在り方について議論した。

 まず、武田氏から企業がクラウド化を進める際に直面する課題として、フルクラウド移行の理想とオンプレミスが残る現実とのギャップから生じる運用の複雑化、コスト増大、ベンダーロックイン、そして高度化するサイバー攻撃への対応が挙げられた。

 これに対し、三木氏はレッドハットが2013年から提唱しているオープンハイブリッドクラウドについて説明した。これは、環境や種別に依存せず、同じ要素技術でアプリケーションを実行・開発・運用するという概念だ。伊東氏は「一般にオープンハイブリッドクラウドでは、オンプレミスとパブリッククラウド間のデータ一貫性の確保が課題となるが、日立ヴァンタラはストレージレイヤーで同期性を保証する独自技術により、この問題に直接応えている」と述べると、三木氏はこの技術について「レッドハットが提供してきたオープンハイブリッドクラウドの最後のピースが埋まった」と高く評価した。併せて、伊東氏は日立ヴァンタラ提供のハイブリッドクラウドソリューションによって、運用の複雑性・コスト増大の解決の他、ベンダーロックインからの解放についても言及した。

レッドハット 常務執行役員 三木雄平氏

 さらに、話題はサイバーセキュリティへと広がり、三木氏はIT部門だけの問題ではなく経営課題として全社的に取り組むことの重要性を強調し、「システムごとの個別対処ではなく、シンプルで一貫性を持ったアプローチが必要」と述べた。また伊東氏はランサムウエア攻撃を受けた企業のうち、96%がバックアップを取得していたにもかかわらず、85%が復旧に至らなかったという調査結果*を紹介した。こうした実態を踏まえ、サーバOSやアプリケーション、ミドルウエアなどの管理者権限が侵害された場合であっても、直接的な被害リスクが極めて低く、万一の際の回復性にも優れた日立ヴァンタラのD2D(Disk-to-Disk)バックアップソリューションの堅牢性、重要性を強調した。
*令和7年上半期 警察庁サイバー警察局調べ

日立ヴァンタラ ハイブリッドクラウド事業本部 本部長 伊東隆介氏

 最後にディスカッションでは、ハイブリッドクラウドによるデータ管理のサイロ解消、ランサムウエアに強いD2Dバックアップの採用、災害やサイバー攻撃からのBCP(事業継続計画)の再確認、回復ドリルの実施という4つの重要ポイントがまとめられた。

日立ヴァンタラ 主管技師長 武田貴彦氏

「責任を取る覚悟があるか」AI時代に問われるリーダーシップ

 最後の特別講演には、元サッカー日本代表監督で、今治.夢スポーツ代表取締役会長の岡田武史氏が登壇。「AI時代に問われるリーダーシップとテクノロジーと人との新しい共助コミュニティ」と題した講演の中で岡田氏は、AIと人との決定的な違いをこう述べた。

今治.夢スポーツ 代表取締役会長/サッカー元日本代表監督 岡田武史氏

「AIは非常に賢く、データから最適解を導き出します。しかし、では誰が責任を取るのかという問いは答えられません」

 一方で、リーダーにはリスクを背負い、責任を取る覚悟が求められるというのが岡田氏の持論だ。データや論理だけでは導き出せない、目に見えないエネルギーや執念が、最後の一手を決めることがある。サッカー日本代表監督やゆかりのなかった土地での経営者としての経験を基に語る岡田氏は、自身が学園長を務めるFC今治高等学校里山校で、ときには孤独に決断を下す覚悟を持てるリーダーの育成にも努めている。

 人材育成と並行し、今治市で進めている新しい共助基盤の構築では、積極的にテクノロジーを活用したいという。たとえば、新スタジアム近くの障がい者施設にAIカメラを導入することで、カメラが察知した異変を近くにいる人に伝え、その人が助けられる仕組みができれば、かつて地域共同体が持っていた共助を一段高い次元へ引き上げることになる。

 こうした新しい共助の在り方を“今治モデル”として確立し、まずはサッカーチームのある各地に広げ、さらには日本全体を活性化させたいと展望を述べると、聴衆から大きな拍手が寄せられた。

 すべての講演の終了後、会場ではネットワーキングセッションの時間が設けられた。熱気冷めやらぬ中、登壇者と参加者は次代の基盤を形づくる当事者として意見を交換し続けた。

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※記載の肩書・役職は、イベント開催時点の情報に基づくものです。