写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

「トヨタ生産方式」や「カイゼン」といったトヨタ式の経営手法を導入しようとする企業は多い。だが、変革を実現するには「型」を真似るのではなく、本質を理解する必要がある。『最強トヨタの最高の教え方』(山本大平著/クロスメディア・パブリッシング)から一部を抜粋・再編集。トヨタ出身の戦略コンサルタントが同社での経験を基に、変革をもたらす人材育成の要諦を説く。

 部下の成長、さらには組織の進化を促す「権限移譲」は、どうあるべきなのか。

リーダーの覚悟が「心理的安全性」を創り出す

最強トヨタの最高の教え方』(クロスメディア・パブリッシング)

 私が提唱する「ミッション・ドリブンな権限移譲」は、部下の当事者意識に火をつけ、その成長を促す極めて強力なメソッドです。

 このメソッドを実践する上で、多くのリーダーが最後の最後である一つの「壁」に直面します。

 それは、「部下にどこまでリスクのある判断を委ねることができるか?」という、リーダー自身の「覚悟」が問われる壁です。

 多くのリーダーは部下に裁量を与え、仕事を任せると言いながらも、その判断が自らの部署の業績や自身の評価に少しでもネガティブな影響を及ぼす可能性があると判断した瞬間に、無意識のうちにその権限を部下から取り上げてしまいます。

「いや、その判断はリスクが大きすぎる。ここは私の指示通りにやってくれ」と。

 このリーダーによる「土壇場での介入」こそが、これまで築き上げてきた部下との信頼関係を一瞬にして破壊するのです。

 部下はこう感じるでしょう。

「結局、自分はこの人から信頼されていなかったのだ。口先では『任せる』と言いながら、都合が悪くなればすぐに梯子を外されるのだ」と。

 では、真のリーダーはこの「リスクテイク」と「権限移譲」のジレンマにどう向き合うべきなのでしょうか。その鍵は、「責任」という言葉を2つの異なる概念に明確に分解して考えることにあります。