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 ブランドの創業者であるイノベーターの生き方を知ることは、経営者の在り方にも有益な示唆を与えてくれる──。アパレルやファッションの歴史について学ぶことの意義についてそう語るのは、2025年6月に書籍『「イノベーター」で読む アパレル全史【増補改訂版】』を出版した、作家の中野香織氏だ。アパレルの世界で革新的な功績を残し、業界の常識を塗り替えてきた変革者たちは、どのような考え方を持ち、いかにして社会に影響を与えてきたのか、中野氏に話を聞いた。

ファッションは「時代の無意識」を映し出すメディアである

──著書『「イノベーター」で読む アパレル全史【増補改訂版】』では、アパレルやファッションの歴史についてイノベーター(変革者)という視点から解説しています。経営者やビジネスリーダーがアパレルの歴史を学ぶことは、どのような意味を持つのでしょうか。

中野香織氏(以下敬称略) アパレルやファッションの歴史を知ることは、単に服の形や流行を追うことではありません。ファッションは、時代ごとに移りゆく価値観やジェンダー観、地政学、技術、人々の感情など、「時代の無意識」を映し出すメディアなのです。だからこそ、ファッションの歴史をたどることは、「次に何が来るのか」「今がどういう時代なのか」を読み解く手掛かりになります。

 こうした視点は、経営者やビジネスリーダーにとっても、きわめて重要です。なぜなら、企業経営において大切なのは「数字で測れる成果」だけでなく、「目に見えない価値をどのように積み重ねていくか」という長期的な視座だからです。

 実際、長い歴史を持つファッションブランドの多くは物語性や美意識、儀礼といった数値化できない価値を文化資本として蓄積し、それを基盤にビジネスを築いてきました。ブランドの背景を知ることで、経営の新たな発想を得るヒントが見つかるはずです。

 また、ブランドの創業者であるイノベーターの生き方を知ることは、経営者自身の生き方を見直すきっかけにもなります。例えば、宝飾大手のミキモトを創業した御木本幸吉氏のように、一人の志が国を代表するブランドを築き、時代を動かすほどの影響をもたらすこともあります。

 だからこそ、異業種の経営者の方にもファッションの歴史知ることで新たな視点や発想を得ていただけたらと思います。