
2014年に経済産業省により「伊藤レポート1.0」が公表されてから10年が経過した。伊藤レポートはその後、2度アップデートされ、「稼ぐ力」の向上や持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)、人的資本経営、サステナビリティの必要性を訴えて来た。これを受けて日本企業で進められてきたガバナンス改革の振り返りと、次に取り組むべき課題について、一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏に聞いた。
経営には、さまざまな課題に対応する「総合格闘技力」が必要
経営が向き合うべきテーマは年々増えています。具体的なテーマには、「稼ぐ力・資本効率性」「人材戦略・人的資本経営」「脱炭素・気候変動・生物多様性」「DX」「ESG・SDGs」「事業ポートフォリオの最適化」といったものがあります。
経営では、こうした課題に対する技を磨き、それぞれの技を環境変化に応じて組み替え、統合していく‟総合格闘技力”が必要です。「神は細部に宿る」というように、細部の技をいかに統合するかで価値が決まります。つまり、価値は統合から生まれるわけです。
さらには、こうした取り組み結果を従来の「財務情報」に加え、「非財務情報」として開示し、投資家を含むステークホルダーとの対話に生かしていくことも重要となっています。
テーマは切り替わりではなく積み重なっている
私が座長として関わってきた企業経営に関するレポートやガイダンスを図にまとめてみました。
2014年の「伊藤レポート1.0」では、資本コストを上回る資本生産性、稼ぐ力を高めることが必要だと進言し、2017年の「伊藤レポート2.0」では、無形資産投資、ESG投資の重要性を訴えました。2022年「伊藤レポート3.0」ではSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の必要性、そして「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営の必要性を提唱しました。
経営者の中には、これらを見て、時代ごとにテーマが切り替わっていると捉える方もいるかもしれませんが、決してそうではありません。
テーマは時代ごとに切り替わっているのではなく、積み上がっているのです。








