友廣 デジタルセールスを立ち上げる当初、私は、いわゆるロングテール型で1人の営業パーソンに対して顧客が50社、100社を担当する形態。つまり「1対50」「1対100」といった営業領域での展開を考えていました。

 しかし、実際に業務に関わってみると、上位の顧客層では、営業と顧客の関係が「1対1」どころか、営業200人に対して顧客が1社というケースもあることを知り、驚きました。しかも顧客側の窓口は情報システム部門が中心です。これを変える必要があると感じ、それにはどのようなモデルがいいのだろうかと再検討しました。

 よくよく考えてみると、大企業であればあるほど、グループ企業や支店、工場などを含めることで、顧客の裾野は広がります。さらに、富士通には実に多様な製品・サービスがラインアップされており、どのようなLoB(Line of Business)にも提案することができます。これらを掛け合わせれば、大きな成果につながる可能があります。

 であれば、現在営業がアプローチできていない情シス以外の部門に対して、私たちが狙いを定めてアプローチをしていけば、エンタープライズ型の「THE MODEL」が築けるのではないか。そう考え、実際に取り組んできました。

――既存の顧客に対して、具体的にどのような考え方でアプローチしているのですか。

友廣 企業単位でアプローチするBtoBマーケティング手法の1つにABM(アカウント・ベ-スド・マーケティング)がありますが、正直私はこの言葉が長年しっくりきませんでした。

 私が外資系企業で経験したABMでは、顧客に情報を密に提供可能な「専用のウェブサイトを作成する」といった施策が中心でした。一見すると顧客に寄り添っているように思えますが、それが契約更新につながるわけでもなく、顧客との関係性が深まりロイヤルティーが高まるとも思えませんでした。価値のないことをやっているなというのが率直な感想です。

 反対に、私は、ABS(アカウント・ベースド・セリング)の概念を気に入っています。米国西海岸で数年前より注目されているそうで「Goodbye, MQL. Hello, Buying Group」という言葉が象徴的です。これはつまり、MQL(Marketing Qualified Lead)をKGIとする従来のファネル型マーケティングは、もはや時代遅れなのではないかという考え方です。

 リードを獲得し、デジタルセールスがクオリファイ(※)した後、それを営業に渡して成約を狙うという流れでなく、あらかじめターゲットを営業と握りながらしっかりと絞り込み、われわれが顧客との最初の接点で丁寧に対応し、キーパーソンを見出す。その上で、その顧客のどの部門からどのような案件を創出していくかを戦略的に考えるという手法です。

 これこそが、今求められる新しいセリングモデルだと考えています。

※リードの見込み度を見極め、営業に渡すに値するかどうかを判断するプロセス

――友廣さんは、アプローチする既存顧客について、「既存の新規」といった言葉を使用していますね。

友廣 その通りです。現在、富士通のインストールベースに含まれない顧客は、ほとんど存在しないでしょう。特に、ある程度の規模を持つエンタープライズ企業であれば、なおさらです。パソコンやモニターの利用、サーバーの設置などを通じて、相当数の企業が富士通製品を何らかで使用しているのが実情です。

 しかし、SaaS型のサービスが急増し、競合も増えて製品がコモディティ化している現在、既存のビジネスを守り抜くだけでは不十分です。周辺サービスや、顧客が抱える企業課題の解決までを担える存在にならなければ、真のパートナーとは言えません。

 これまでの営業スタイルでは、情報システム部門に訪問し、PCなどのハードウェアを販売するとともに、システムエンジニア(SE)の作業量に応じて契約金額が決まる「工数ビジネス」を受注するのが一般的でした。先ほど述べたようなエンタープライズ企業のLoBと呼ばれる人事・総務・経理などの各部門に対して、営業の窓口がないケースがほとんどでした。さらに、グループ会社や子会社、工場拠点に至っては、まったく接点がありませんでした。

 つまり、一見「既存顧客」に見える企業であっても、実際にはアプローチできていない部署や関連会社が多く存在しているわけです。そうした「既存の新規」に対して、私たちが波状的にアプローチしていくモデルを構築していきました。

既存の新規に対して波状的にアプローチするモデル

大企業こそ営業のデジタルシフトが必要な理由

――友廣さんは、「大企業こそ営業のデジタルシフトが必要だ」という考えを強くお持ちだとか。どういうことか、詳しくお伺いできますか。