富士通 カスタマーグロース戦略室 Digital Sales Division VP, Division長の友廣啓爾氏(撮影:榊 水麗)

 富士通では、2020年より独自のインサイドセールス部門「デジタルセールスチーム」を立ち上げ、富士通式「THE MODEL」型の営業体制を構築し、営業活動のデジタル化(営業DX)を推進してきた。前編に続き、その立役者としてデジタルセールスチームをリードする友廣啓爾氏に、富士通式インサイドセールスの実践法や、富士通および日本企業のBtoBマーケティングの将来像について、話を聞いた。(聞き手:JBpress チーフ・ビジネス・オフィサー 瀬木友和)

前編:「富士通式インサイドセールスに学ぶ──大企業こそ営業のデジタルシフトが必要である理由」を読む

KPIを共有し握ることで営業とデジタルセールスの連携を強化

――前編では、富士通におけるデジタルセールスチーム(インサイドセールス)立ち上げの経緯について聞きました。立ち上げから5年が経過した現在、友廣さんが一番注力していることは何ですか。

友廣啓爾氏(以下敬称略) 組織を立ち上げて4~5年経ちましたが、その間に私たちが取り組むべき重要な課題が1つ、未解決のままでした。それは「営業とKPIなどの目標数値を共有し、その数値に対してコミットする」ということです。これが実現できていませんでした。

 そのため、営業側も、私たちに対して「案件を作ってくれて助かったよ」と感謝はしてくれていましたが、役割としては“良い橋渡し役”にとどまっていました。

 本来であれば、営業の目標数値と見込数値とのギャップに対して、例えばそのうち20%~30%の数字にコミットし、それを埋める責任を持つ、そんな数字の握りをしたかったのですが、実際にはなかなか高いハードルでした。

 しかし今期、初めてそれを実現できました。あるエンタープライズ営業領域において3カ月間で数百億規模の今期受注予定案件を創出するという目標に対し、数値を分担し、それぞれが責任を持って追いかけることができたのです。これは非常に大きな進歩でしたし、ずっとやりたかったことでした。

――次の展開はどう考えていますか。

友廣 目標数値については、私たちの取り組みだけでは不十分で、結局は営業が数字を達成しなければなりません。多くの案件を創出したので、当然ながら、質が良い悪いという問題は出てきます。質が悪いと「使えない」と言われてしまうので、その対応が必要です。

 今後は、受注に向けてより高確度な案件に育てるために、私たち自身がもう一度案件を温め直したり、キーパーソンを改めて探したり、情報の補足・強化をしたりしていくことが、目標となります。

企業内個人の考えまで調べ尽くす富士通式インサイドセールス

――デジタルセールス部門のインサイドセールスの取り組みとは、具体的にどのようなものですか。

友廣 私たちのエンタープライズ型のインサイドセールスでは、基本的に顧客にとっては、私たちが「初めまして」の存在です。

 だからこそ、相手への敬意を持って、1件1件丁寧にアプローチしなければ、不要な営業電話、営業メールの中に埋もれてしまいます。玉石混交の中で、「玉」と認識してもらうには、やはり顧客のことを想像し理解するところから始める必要があります。

 企業検索などの事前準備には、かなりの時間をかけます。中期経営計画や有価証券報告書などを徹底的に調べます。今ではAIの活用も進み、「この部署の方がこのイベントで登壇し、こういうプレゼンをしていた」といった情報まで把握します。その企業内個人が何を考えどんな行動をしているのかまで丹念に調べ上げ、細かくドキュメント化していくのが、私たちのやり方です。

――情報は、人単位で収集するのでしょうか?

友廣 本来は、企業と部署と個人の3レイヤーで情報を収集・蓄積すべきだと考えています。まだ完全には実現できていませんが、少なくとも部署単位では情報をためており、その中に個人の情報、例えば「この人がここでこういう発言している」といった内容も記録しています。

 それらをコール前にしっかり準備・予習し、いわゆる“15秒トーク”のようなオープニングトークにまとめておきます。最初の15秒で相手の反応をつかまなければ、ただの売込み電話と認識されることが多いので、「Why you, Why now(なぜあなたに、なぜ今なのか)」という視点を大切にしながら、1件1件丁寧にフォローしています。

――すごく手間がかかりそうですね。

友廣 手間はかかりますが、何よりも情報収集を重視しています。ですから、1日50件や100件のコールをかけるようなスタイルではなく、1日あたり10件程度に絞って取り組んでいます。エンタープライズ型の営業では、一度電話をかけたからといって、すぐにつながるわけではありません。ライトパーソンを発掘するまでに、メールも含めて平均7~8回ほどアプローチを重ねています。

 一方で、いったん相手と接点が持てると80~90%の確率で、しっかりとヒアリングできています。ヒアリング能力も非常に重要なスキルと考えており、相手の課題やニーズを的確に把握できた場合は、そこから4割ほどが案件にコンバージョンし、営業部門へパスできる状態になります。

JBpressのリード獲得サービスを利用する狙い

――そうした中で、富士通ではJBpressのリード獲得サービスをご利用いただいているわけですが、その背景や狙いをお聞かせください。

友廣 私たちの取り組んでいるABS(アカウント・ベースド・セリング)、つまり企業の特定部門の特定役職の方々にターゲットを絞り込み、戦略的にアプローチするという手法と、極めて親和性が高いことが利用している最大の理由です。

 狙いを定めたターゲットにしっかりと矢を射るには、JBpressのリード獲得サービスは最適だと認識しています。なぜなら、そのようなターゲット層に実際にリーチできているメディアであり、該当する方々のコンタクト情報の保有率が非常に高いからです。それがまさに決め手です。

 例えば、私たちが、年商1000億円以上のエンタープライズ企業の経営企画部長をターゲットにするとしたとき、こうした対象の情報がしっかりと入手できます。

――確かに、JBpressが展開する企業変革メディア「Japan Innovation Review」は、エンタープライズ(大企業)に特化し、イベントも含めて、友廣さんがターゲットとする特定部門・特定職位の方々にヒットするコンテンツを発信し続けています。リード情報も大企業を業種やテーマで細かく分類し、部門も経営企画、経理、財務、人事などに分けて網目状の構造で提供しているので、ABSと高い親和性があるというのも納得です。

JBpress チーフ・ビジネス・オフィサー 瀬木友和

友廣 他社のサービスを使用した場合、情報更新が滞っていることも多々ありますが、JBpressは適切に更新されており、最新の内容を把握できる点も良いと感じています。また、1件あたりの単価もリーズナブルだと実感しています。

――今年に入って、3クオーター連続でご利用いただいていますが、成果はいかがでしょうか?

友廣 直近半期でも62件の案件を創出し、うち1件は早くも受注へつながっています。富士通のソリューションは高付加価値帯に位置するため、件数は多くなくとも、一定の売上の確保が可能です。また、提供いただいたリードのうち約半数は私たちのハウスリストに含まれない新規でした。

――私どものサービスは、どのような課題を抱える企業に向いていると思われますか?

友廣 明確なプランやKPI設定がある場合、つまりターゲットの年商レンジとLoB(Line of Business)がしっかり絞られたマーケティング戦略を持つ企業にとって、非常に有効な手段だと思います。むしろ、それ以外にないのではないでしょうか。繰り返しになりますが、まさにABS型のマーケティングに最適なサービスだと考えています。

 一方で、目的や目標があいまいなまま、広く網をかけてとにかく数を確保するトランザクション型の施策を行う企業には、向かないと思います。

5年後、10年後の日本のBtoBマーケティングの理想像とは?

――友廣さんは、営業のデジタル化に高い熱量で取り組まれていますが、5年後、10年後にはどのような状態が理想だとお考えですか。また、日本企業における営業改革の将来像についてのお考えもお聞かせください。

友廣 私自身、確かなことは言い切れませんが、理想的な形としては、フィールドセールスよりもインサイドセールスの人数が多い状態が、営業のあるべき姿なのかもしれませんね。

 私たちは、生産性の面で評価されます。例えば、インサイドセールス1名とフィールドセールス1名で比較した際に、アーリーステージの案件をどちらがより効率的に創出できているかという観点で比較されることが多くあります。

 結果としては、ほとんどの場合でインサイドセールスの方が高い成果を上げています。

 もちろん、営業にはクロージングという重要な役割があるので、新規案件の創出ばかりに専念するわけにはいきません。また、案件創出後は、コンバージョンレートなどさまざまな係数が絡んできます。

 それでもなお、営業スタイルの主流が、インサイドセールスへとシフトしていくことが理想的な姿ではないかと考えています。

――確かに、先ほどの「営業の目標数字に足りないギャップをしっかり埋める」というお話も踏まえると、むしろインサイドセールスが営業のメインストリームとなりつつある印象も受けますね。

友廣 そうですね。営業の主役がインサイドセールスへと移っていく時代が来るかもしれません。

 やはりROI(投資収益率)というのは非常に重要です。そして、それを支える基盤となるのが「生産性」です。効率を重視する流れの中では、ロングテールに向けて低価格帯の製品を売り切りで販売するモデルでなく、エンタープライズ領域に対して高付加価値帯の製品を高役職者に提案していくABS型のモデルが、ますます重要になってきます。

 インサイドセールスは、顔の見えない状態で高役職者に対して説得を試みるわけですから、まさに「究極のセールス」と言えるのではないでしょうか。むしろ、インサイドセールスが営業の主軸となり、フィールドセ―ルスは受注行為を確実に遂行する役割を担う――それが理想的な姿かもしれません。JTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる日本企業が生き残っていくには、こうした体制が不可欠だと感じています。

 「売上を増やすために人を増やしてほしい」という論理が社会環境的にも企業環境的にも通用しなくなった今、むしろ「人を減らして売上を増やす」ことが基本となっています。そうした状況下では、生産性の高いインサイドセールスを戦略的に配置していくことが、世の流れではないかと思います。

――最後に、友廣さんがマーケターとして大切にされていることについてお聞かせください。マーケターにとって、何が最も重要だとお考えですか。

友廣 私がマーケターに最も重要だと考えているのは「想像力」です。

 先ほども申し上げたように、BtoBマーケティングでは、企業内個人を特定することから始まります。誰がチャンピオンで、誰がフォロワー、誰が決裁権者で、誰が反対者なのか――そうした仮説立てとペルソナ設計が、非常に重要です。

 その上で、どのような人物に対して、どのようなメッセージを届けるべきかを考える際にも想像力が不可欠です。仮説が立てられない人は、BtoBマーケティングには向かないのかもしれません。

 高付加価値帯の製品やサービスをBtoBで売るということは決して簡単ではありません。相手の立場や状況を深く理解し、1件1件丁寧にアプローチしていかなければ、ゴミと捉えられるアプローチの1つになりかねません。

 だからこそ、相手のことを考え、理解するための「想像力」が、マーケターにとって最も重要な資質だと考えています。

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※本コンテンツには、日本ビジネスプレス(JBpress)が提供するBtoBマーケティング支援サービスのプロモーションが含まれます。