富士通 カスタマーグロース戦略室 Digital Sales Division VP, Division長の友廣啓爾氏(撮影:榊 水麗)

 富士通でマーケティング変革や営業DXを牽引しているのが、カスタマーグロース戦略室 Digital Sales Divisionを率いる友廣啓爾氏だ。友廣氏は2020年に富士通独自のインサイドセールス部門「デジタルセールスチーム」を立ち上げ、従来の営業スタイルから刷新。富士通式「THE MODEL」型の営業体制を構築し、営業のデジタル化を推進してきた。約11万人規模の大企業において、たった3人で始動したデジタルセールスチームも設立から5年。チーム誕生の背景や組織の変遷、友廣氏が富士通で見出した大企業におけるマーケティング変革や営業DXの勝ち筋について話を聞いた。(聞き手:JBpress チーフ・ビジネス・オフィサー 瀬木友和)

日本のBtoBマーケティングは遅れているか

――友廣さんは、富士通の前に、HP、SAP、マイクロソフトなどの外資系IT企業で長くBtoB領域のフィールドマーケティングに携わってこられました。そうした経験を経て富士通を選ばれた背景には、どのような思いがあったのでしょうか。

友廣啓爾氏(以下敬称略) 外資系ではどうしても海外本社の影響力が強く、日本などのリージョンやカントリーでできることには限りがありました。

 マーケティングには、例えば4P(※)といったフレームワークがありますが、極端に言えば、外資系で担えるのはプロモーション領域に限られるのが実情です。そこで、プロモーションだけでなく、マーケティング全体に関わる仕事がしたいと考え、富士通を選びました。

 また、日本経済は「失われた30年」と言われて久しく、私自身も外資系企業と比較して、日本企業は20~30年ほど遅れていると感じていました。そこで僭越ながら、外資で培った知見を日本企業に移植し、成長に貢献できればと思ったのも、富士通に移った理由の1つです。

※Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(販促)の頭文字をとったマーケティング戦略上のフレームワーク

――確かに、「日本企業のBtoBマーケティングは遅れている」と言われることがあります。この点について、どう思われますか。

友廣 「遅れている」というよりも、マーケティングの地位が低いと感じています。私は、収益を生み出す仕組みをつくるのがマーケティングだと思っているのですが、そうした視点で取り組んでいる日本企業はほとんど存在しないのではないでしょうか。

 日本企業では、そもそもマーケティング部門が独立して設置されているケースも少なく、営業企画や経営企画の一部として扱われていたり、販売推進がマーケティングと見なされていたりします。極端な例では、PRとマーケティングが同じだと誤解されていることもあります。

 ウェブ施策やイベント運営のみをマーケティングと捉えている企業や、「マーケティング=ブランディングや認知向上」といったイメージしか持っていない企業も、いまだに少なくないのではないでしょうか。

 それらもマーケティングの一部ではありますが、本来は「売り物」「売り方」「売り先」を考えるのがマーケティングの役割だと、私は考えています。これら全体を通して機能すべきマーケティングが、そうはなっていないという意味では、確かに遅れていると感じますし、企業内での扱いも低位でとどまっていると思います。

富士通式「THE MODEL」で営業のデジタルシフトを実現

――友廣さんが、2020年にデジタルセールスチームを立ち上げ、営業のDXに取り組まれてから5年が経ちました。チーム設立の背景や、どのような位置づけの組織として推移してきたのか、お聞かせください。

友廣 入社当初から「マネタイズできるマーケティングの仕組みをつくりたい」という思いを抱いていました。では実際に何ができるのかと考えた結果、デジタルセールスチーム(インサイドセールス)の立ち上げに至りました。

 デジタルセールスチームの位置づけに関しては、営業部門に属するか、マーケティング部門に属するか、あるいは中立の独立組織とするかといった選択肢があります。営業に置くと近視眼的になりがちで、マーケティングに置くと中長期的に営業との距離が縮まりにくいといった課題があります。

 そこで私は、独立型でマーケットと営業を結びつける「かすがい」となる組織にできればと考えていました。そうした時に、当時のCRO(最高収益責任者)から声がかかり、デジタルセールスチームはマーケティング部門からCRO直下の組織に異動することになりました。

デジタルセールスの立ち位置3パターン。富士通では「独立型」を採用。

――デジタルセールスチームの現在の規模と役割をお聞かせください。

友廣 現在、チームは約130人の体制で、5つの部署に分かれています。

 1つ目は、約70名が属するデジタルセールス部門で、これは実際に顧客にアプローチする、いわゆるインサイドセールスの役割を担う部隊です。

 2つ目は、イネーブルメントのチームで、デジタルセールス部門の教育や仕組みづくりの担当です。

 3つ目は、複雑で専門性が高いという特徴を持つ富士通の製品・サービスを販売するための技術支援を行うプリセールスの部門があります。ここが現場に即したターゲティングからシナリオ作りまで行い、生産性と質の高い案件創出を担っています。

 4つ目は、データドリブンのチームで、AIやCRMそしてダッシュボードを活用したデータの分析や見える化を図っています。

 そして5つ目は、海外展開を担当するチームです。インサイドセールスはもともと海外発の手法ですが、富士通の海外拠点では国内展開時と同様に分業についてよく知られていない現状があり、日本のモデルを海外拠点に逆輸入しています。

――いわゆる「THE MODEL」(※)の体制への移行が基盤にあると伺っています。その上で富士通が独自に「THE MODEL」を進化させたポイントには、どのような点があるのでしょうか。

※マーケティング、インサイドセールス(富士通におけるデジタルセールス)、フィールドセールス、カスタマーサクセスの4部門が顧客情報を共有しながら営業活動を進める体制のこと