Sansan 執行役員 Bill One事業部 事業部長 大西 勝也氏(撮影:榊 水麗)
2020年のリリースから5年足らずでARR(年間経常収益)100億円を突破した、Sansanの経理DXサービス「Bill One(ビルワン)」。祖業のビジネスデータベース「Sansan」とは異なる新たな領域でこれまでにないプロダクトを生み出し、圧倒的な成長を実現させてきたマーケティング戦略について、執行役員Bill One事業部事業部長の大西勝也氏に聞いた。
経理担当の苦しみから生まれた「請求書受領」サービス
――「Bill One」が市場に出た当時は「請求書受領」というサービスは他になく、非常に革新的でした。どのような経緯でこのプロダクトの発想に至ったのですか?
大西勝也氏(以下敬称略) きっかけは、当社の元経理担当者です。「経理が本来の経営判断に資する仕事に集中するためには、ルーティンワークを廃すべきだ」と、担当業務の傍らBill Oneの企画書を作ったのが2016年ごろのことです。その担当者が新規事業開発室に異動した後、事業化の中心を担ってくれました。
当初Bill One は、Sansanで培った技術を活用して、請求書をスキャンしてデータ化する機能として売り出そうとしていました。しかし、発行元の都合によって廃止できない紙の請求書は想像以上に多く、これをスキャンする業務そのものが大きなストレスになっていることが分かりました。そこで、紙を含めてあらゆる請求書の受領とデータ化をBill Oneが丸ごと請け負う形にしたのです。
――Sansanとは異なり、Bill Oneが経理領域のサービスであることで「売り方」は変わりましたか?
大西 Sansanは、標準化された業務がないところに、名刺管理という全く新しい業務を入れ込むサービスでした。これに対してBill Oneは、請求書受領という既存の業務プロセスを置き換えるものです。先方の経理部門の方と実際の業務プロセスと擦り合わせながらどう置き換えていくのかを提案する必要があり、当社のマーケティング、セールス、カスタマーサクセスに至るまで、経理業務の知識をインストールしなければなりませんでした。ここでは経理業務とプロダクトの双方に精通するメンバーに活躍してもらい、チーム内にその知見をレクチャーする仕組みを走らせながらつくり上げていきました。
「七人八脚」でプロダクト成長のサイクルを回す
――Bill Oneのマーケティング組織の構成と規模をお聞かせください。
大西 SaaS製品はお客様に提案しながらニーズをつかみ、これをフィードバックしてプロダクトを成長させていくというビジネスモデルですので、組織間の連携は非常に重要です。当社では、開発を行うプロダクト組織、プロモーションを担当するマーケティング組織、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスを含むセールス組織が三位一体となって取り組みを進めています。人員は、Sansan事業に準ずるような規模感に拡大してきています。
――Bill Oneのリリース後、経理部門はどのようにプロダクトに関わっていますか?
大西 例えば、Slack上に誰でもフィードバックを投稿できるチャンネルがあるのですが、当社の経理部門も実際にBill Oneを使ったフィードバックをくれます。加えて、機能アップデートの共有会やデモに参加してアドバイスもくれますし、UXデザイナーが一日中、経理担当者の後ろに立って業務を観察することもあります。
当社では目標管理手法として3カ月単位のOKR(Objectives and Key Results)を設定していますが、実は、経理部門のOKRに「Bill Oneの事業成長」が含まれるケースもあり、非常に高い意欲をもってプロダクトにコミットしています。Bill Oneは請求書受領だけでなく、経費精算、債権管理にも展開を広げ、現在では「経理DX」を標榜するブランドとなっています。今後も経理部門と連携しながら、一緒にプロダクトを成長させていきたいと考えています。
――組織間の連携が重要ということですが、Bill Oneの成長に伴って組織が急速に大きくなる中では、スムーズな連携が難しくなるのではないでしょうか?
大西 各セクションがサイロ化しないよう、常に気をつけています。当社のマーケティングは「THE MODEL」といわれる分業型のプロセスモデルに基づいていますが、このモデルの欠点は、各プロセスを最大化するために各部門が部分最適に陥り、結果として全体最適を損なってしまうことです。そのため、共通の目標を持って、最終的にそれが事業の成果につながるよう構造的に設計することを心がけてきました。また、会議体をはじめとしたコミュニケーションも非常に大事にしています。
幸い、当社に根付いているカルチャーの1つに、全セクションが足並みをそろえて新しい価値をつくり出そうという「七人八脚」というものがあります。こうしたマインドも含めて調整しながら、プロダクト成長のサイクルを回しています。
顧客の潜在的な課題を見抜く「Lead the customer」が原点
――2020年のリリース以降、Bill Oneはわずか5年足らずでARR(年間経常収益)100億円を達成しました。これを支えたマーケティング戦略とは、 どのようなものだったのでしょうか?






