写真提供:日刊工業新聞/共同通信イメージズ
スマホやパソコン、家電、自動車など、生活に密着した機器の製造に不可欠な半導体。生成AI時代の到来でその重要性は増しており、米中覇権争いが熾烈(しれつ)を極める中、経済安全保障における最も重要な戦略物質と目されている。一方で、製品はメモリ、CPU(MPU)、センサーなど多種多様、多数のメーカーが製造工程ごとに世界中に点在しており、産業構造はあまり知られていないのが実態だろう。そこで本連載では、日本電気で一貫して半導体事業に携わった菊地正典氏の著書『教養としての「半導体」』(菊地正典著/日本実業出版社)から、内容の一部を抜粋・再編集。
今回は、巻き返しを目論む日本の半導体産業の今後と課題を読み解く。
新たな動きと日本半導体産業のゆくえ
■ やはり、それでも「TSMC進出をチャンス!」として捉えよ
「TSMCが日本に新工場をつくる」というニュースの一報とその内容に接したとき、筆者の偽らざる第一印象は、「えっ! 今さらなぜ?」でした。
なぜなら最先端分野では、すでに5ナノメートル(ナノメートル=10-9ⅿ)だ、3ナノだ、2ナノだと騒がれているときに、2822ナノレベルのノード、つまり10年以上前に開発されたミドルレンジのレガシープロセスの工場と知ったからです。
TSMCは、利益率が高く、また中国との地政学的関係で有事に備え、半導体生産における台湾の立ち位置を維持・強化し、他社の追随を許すまいとする姿勢と同時にビジネスとしてはミドルレンジ半導体を必要とする既存ユーザーを無視するわけにもいかず…しかし、今さら古いプロセスの工場を新たにつくることも躊躇するという事情を抱えていたことは明らかです。
すなわち、TSMCとしては、今後膨大な投資が見込まれる2ナノ以降のハイエンド・プロセス開発と先端ロジック生産にリソースを集中したいと考えるのは当然でしょう。そのような状況下で、日本の国の支援と日本国内メーカーの参加のもと、本来必要な投資の半分で工場を新設できるというのは決して悪い話ではなかったでしょう。まして日本政府の熱い要望と期待を受け、アメリカの後押し(圧力?)もあったかもしれません。
それでも、TSMCなどの事情はさておき、半導体関係者の多くにとって思いもしなかった一石が投じられたことは確かで、その意味で筆者は「喜ぶべきこと」と考えるに至りました。






