出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ出所:日刊工業新聞/共同通信イメージズ

「モノづくりは人づくり」であるとして人材教育に力を入れるトヨタ。だが、具体的にどのような人材教育が行われているかを知る人は少ない。そんな同社の「人づくり」の秘訣と本質を、7年にわたる取材を通じて解き明かしたのが、2025年5月に著書『豊田章男が一番大事にする「トヨタの人づくり」 トヨタ工業学園の全貌』を出版したノンフィクション作家の野地秩嘉氏だ。人間力を伸ばすと言われる人材教育の考え方や具体的な取り組み、その教育方針にまつわるエピソードについて、野地氏に話を聞いた。

「入社後1番役に立つ」トヨタ企業内学校の「ある授業」

──著書『豊田章男が一番大事にする「トヨタの人づくり」 トヨタ工業学園の全貌』では、「先生ではなくトヨタ現役社員による指導」「人間について教える授業科目」など、トヨタ工業学園(トヨタが運営する職業能力開発校)のさまざまな特徴について解説しています。特にユニークなものとして、どのような取り組みがありますか。

野地秩嘉氏(以下敬称略) トヨタ工業学園(以下、学園)卒業生10人程にインタビューをしましたが、全員が共通して「とても参考になった」と話していた授業があります。それは技術教育や実習ではなく、人間について教える授業である「講話」です。

 講話の時間は毎週金曜日、少なくとも2時間が確保され、講師はトヨタの現役社員が務めます。実際の仕事における問題解決方法やトヨタ生産方式についてなど、仕事や生活に関する本質的なテーマが多く取り上げられます。

「講話」と聞くと精神論を想起する人もいるかもしれませんが、同校の講話は精神論でも、現役社員の功績を聞く時間でもありません。むしろ、失敗談や開発における生々しい苦労話が多い印象です。

 だからこそ、卒業生たちが声をそろえて「トヨタに入社後、講話で聞いたことが最も役に立った」と言うのでしょう。

 会長である豊田章男氏は、「学園は座学より、現場に入って心と人間力を学ぶ場所」と述べています。知識量や理屈だけでなく、仕事をする上では人の心を大事にして、仲間たちとどう乗り越えていくかが大切、と考えているのです。