日本経済をけん引した製造業の競争力低下が言われて久しい。日本企業がものづくりの「現場力」を取り戻し、グローバル競争力を再び高めるためには何が必要なのか──。その答えを探るイベント「ものづくり“新しい現場力”ラウンドテーブル」(主催:Japan Innovation Review、協賛:キャディ)が2025年7月7日に開催された。『現場力を鍛える』『新しい現場力』の著者である経営コンサルタントの遠藤功氏をモデレーターに迎え、三菱電機、ヤマハ発動機をはじめとした製造業のエグゼクティブ10名が参加し、企業の垣根を超えた活発な議論が交わされた。

日本の現場力はなぜ落ちてしまったのか

 ラウンドテーブル前半は、「日本の製造業の現場力はなぜ落ちてしまったのか」をテーマに、遠藤氏が論点整理を行った。

「日本企業だからといって、全ての会社に現場力が備わっているわけではない。現場力の格差が広がっている」──。6年前、ビジネス誌の「さびつく現場力」という特集で取材を受けた際、遠藤氏はこうコメントしたが、その認識は甘かったと述懐する。格差どころか、ほとんど全ての日本企業から現場力が消え失せようとしていたのだ。

シナ・コーポレーション 代表取締役 遠藤功氏

 “現場力が死んだ”根本原因について、遠藤氏は4つの「なし」(投資なし、人員増なし、賃上げなし、値上げなし)、3つの「過剰」(オーバーアナリシス、オーバープランニング、オーバーコンプライアンス)、2つの「放置」(低収益事業の放置、古い組織カルチャーの放置)を挙げる。

 これまでも、そしてこれからも、現場力が製造業の競争力の源泉であることは不変だが、企業を取り巻く環境や働く従業員の価値観、テクノロジーが大きく変化する中で、現場力を回復するだけではもはや不十分であり、「新たな環境に適合する『新しい現場力』へとアップデートしなければならない」と遠藤氏は訴える。

「新しい現場力」として、遠藤氏は①「厄介な問題」に対処する現場力を身につける、②「つながる力」を高める、③「フロントエンド現場力」を強化する、④「多様性を活かす現場力」へシフトする、⑤テクノロジーと共存し「現場実装」する、という5つのポイントを提唱。ラウンドテーブル後半では、これらのうち①②⑤にフォーカスして議論を行った。

 また、遠藤氏は、現場力の再生に加えて、経営全体のアップデートも不可欠であるとし、現場力、組織カルチャー、競争戦略の3つを理念・ビジョンの串で突き刺す「串団子モデル」について紹介した。

遠藤氏が提唱する「串団子モデル」©ISAO ENDO