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 生成AIをいかにビジネスに実装していくかが求められる一方で、その進化の速さからこの技術の未来を見通すことは難しい。では、AI活用が前提となる時代に、私たちは何を押さえておくべきなのか。米グーグルでエンジニアとして活躍後、台湾に戻りトップクラスのスタートアップ経営者となった著者が記した『AI世界を生き抜く 根本原理とルール』(セガ・チェン著/日経BP)から内容の一部を抜粋・再編集。

 AIはいかにして推論能力と共感能力を備えたのか。いまだに研究者たちも解明できず、ブラックボックス化している、AIの回答生成のプロセスに迫る。

■ セキュリティとAIの信頼性:最重要課題に迫る

 AIがこれほど優れているとされる中で、多くの人が懸念するのは「AIが自らの心を持つようになり、人類の独自性を脅かすのではないか。さらには、自我を獲得し、いずれ人類を支配するようになるのではないか」という点である。

 これは極めて重要な問いである。

GPT-4が心理テストに合格

「心」の定義が何であれ(人類は何百年もの間、この定義について議論を続けてきたが、いまだに結論には至っていない)、外部からの振る舞いを見る限り、オープンAIのGPT-4は私たちが一般的に認識する「心」の一部をすでに備えていると考えられる。

 GPT-4が発表された際、マイクロソフトの研究者たちは直ちにGPT-4を対象に研究を行い、その成果を154ページに及ぶ研究報告書として発表した。この報告書には、GPT-4が示した驚くべき能力が詳細に記録されている。

 その中でも特に注目を集めたのは、GPT-4がクラシックな心理テスト「サリーとアンの課題(Sally-Anne Test)」を成功裏にクリアしたことである。このテストは子供の発達心理学で広く用いられるものであり、特に「心の理論」、すなわち「他者の心理状態や視点を理解する能力」があるかどうかを評価するために実施される。