
新型コロナウイルスの世界的流行は、航空事業を主とするANAグループの経営に深刻な影響を及ぼした。しかし、同グループは2020年度の営業利益マイナス4,647億円という史上最大の危機から、2023年度の過去最高益へとV字回復を遂げる。ANAホールディングス取締役専務執行役員グループCFOの中堀公博氏が、その経緯と持続的な企業価値向上の取り組みを、財務的視点から振り返る。
航空業界に壊滅的な打撃を与えた新型コロナウイルス
2019年末に端を発した新型コロナウイルスの世界的流行は、社会全体、そして企業経営に甚大な影響を及ぼした。
特に、航空業界は壊滅的な打撃を受けた。緊急事態宣言や入国制限によって人の移動が止まり、2020年の旅客数は2019年比で、国際線で96.2%、国内線で66.9%減少。輸送量を示す旅客キロ(RPK:Revenue Passenger Kilometers)は、約40年前の水準まで落ち込んだ。
ANAホールディングス取締役専務執行役員グループCFOの中堀公博氏は、「当社にとって、新型コロナは史上最大のリスクイベントでした」と当時を振り返る。
オイルショック、バブル崩壊、米国同時多発テロ、リーマンショックなど、いくつものリスクイベントを乗り越えて成長を遂げてきたANAグループ。しかし、コロナ禍は、2020年度の売上高が2019年度から1兆2,455億円減少して7,286億円。営業利益は5,107億円減少してマイナス4,647億円の過去最大赤字という、まさに未曾有(みぞう)の事態だった。
コロナ禍がこれまでのリスクイベントと異なっていた点は、国際線だけでなく、国内線の旅客需要も激減したことだ。そして、新型コロナウイルス発生直後から、予約の減少や航空券の払い出しによって、前例のない勢いでキャッシュが流出した。
初めて緊急事態宣言が出た2020年4月以降、2021年にも相次いで緊急事態宣言が発令されるなど、コロナ禍は長期化していく。それでもANAグループは、この危機を乗り越えて、2023年度には過去最高益となるV字回復を果たした。その経緯と企業価値向上の取り組みとはどのようなものだったのだろうか。







