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『マネジメント』(ダイヤモンド社)をはじめ、2005年に亡くなるまでに、39冊に及ぶ本を著し、多くの日本の経営者に影響を与えた経営学の巨人ドラッカー。本連載ではドラッカー学会共同代表の井坂康志氏が、変化の早い時代にこそ大切にしたいドラッカーが説いた「不易」の思考を、将来の「イノベーション」につなげる視点で解説する。
組織としての旧日本軍を研究し、現代の企業経営にさまざまなヒントを与え続けている名著『失敗の本質』。同書で指摘されたガダルカナル島の戦いの失敗と、ドラッカーのマネジメント論の共通点についてひもとく。
「見くびった者」が負ける
名著『失敗の本質』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著/中央公論新社)において、三つ目の事例「ガダルカナル戦」は、野中郁次郎氏自らが執筆した章である。その分、野中氏のクールでありながら、熱い心情も感じ取れる章となっている。そこには、後にアメリカ海兵隊の研究に至る冷徹な研究上の視座とともに、愚かな戦略の招く不条理への怒りを読み取ることができる。
ガダルカナル島の戦いで日本軍が失敗したのは、「相手の実力や現実を正しく見ず、軽く見ていたこと」が原因の一つだった。この構造は、戦後の日本企業、特に一時は大きな成功を収めた大企業においても、驚くほど似た形で繰り返されてきた。
細かいことにはあえて触れない。この「失われた30年」を一瞥(いちべつ)すれば十分だ。これなどは、日露戦争の勝利がかえって太平洋戦争における戦略策定の足かせとなった経路をあまりにもリアルになぞっている感さえある。成功を収めた大企業の多くは、自分たちが売っているものを顧客が買い続けてくれると信じ、顧客が本当に欲しているものが変化している現実から目を背けた。
そうした企業に共通するのは、ドラッカーの言う「顧客に近い現場に耳を傾ける姿勢」の欠如である。市場の最前線で起きている微細な、しかし決定的な変化の兆候を捉えることなく、過去の成功モデルを絶対視し、それを疑うことをしなかった。
結果、ガダルカナル島の戦いがそうであったように、気付いた時には取り返しのつかない劣勢に置かれることになっていた。






