老朽化したレガシーシステムに起因して、年間最大12兆円もの経済損失が発生するという「2025年の崖」問題。この重要課題を解決するためには、システムのモダナイゼーション(老朽化したシステムの最適化や刷新)とDX推進の両立が不可欠だという。経済産業省「DXレポート」の実質的な著者のひとりである和泉憲明氏に、経営者が主導すべき戦略的モダナイゼーションとDX成功のポイントについて聞いた。

※本稿は、Japan Innovation Review Forums主催の「第1回 ITインフラ・モダナイゼーションフォーラム」における「基調講演:レガシー刷新 × DX推進──経営者が主導するモダナイゼーション戦略/和泉憲明氏」(2025年4月に配信)をもとに制作しています。

レガシーシステムの刷新から競争力強化へ、IT投資のシフトを

 経済産業省が2018年に公開した「DXレポート」で問題提起した「2025年の崖」問題の一部ですが、基幹システムのモダナイゼーションが一定程度、進展したことにより、2025年問題(昭和100年問題)は回避されたと言えるでしょう。

 ただし、「2025年の崖」問題はもともと、レガシーシステムそのものの問題だけを指摘したものではありません。DXレポートの真意は、レガシーシステムの維持に注力することで、レガシーなビジネスプロセスが固定化してしまい、結果としてDXが進まないことに対する警鐘を鳴らすことにありました。IT投資を現行システムの維持管理から、デジタル変革による競争力強化へとシフトさせていくことこそが、重要なのです。

 そのためには、システムモダナイゼーションの先にあるゴールを明確にする必要があります。例えば、クラウドインフラに最適な業務、価値提供は何か。こうしたことを、経営者視点でしっかり問うことが、「2025年の崖」問題に向き合うためのモダナイゼーション戦略の核になると考えています。

 当時、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立すること」と定義しました。

 情報システムはこれまで、業務における「使いやすさ」がフォーカスされ、情報の収集と整合性が維持管理の目的でした。しかし、デジタルと経営を両立させていくためのポイントは、情報システムによる「データの活用」にあります。

 経営者がデジタルやAIを使いこなし、データを活用して経営判断を高度化することがDX推進の本質です。そのための経営ビジョン、そして具体的なDX成功事例について解説していきます。