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 従来、マーケティングにおいては「人は意識的にモノやサービスを選択している」という考え方が前提とされてきた。しかし実際には、人の意思決定の実に95%が「無意識」に行われるものであることが分かっており、顕在意識ではなく無意識に働きかけるマーケティング手法が注目され始めている。本稿では『「直感買い」のつくり方 記憶と連想の力で「つい選んでしまう」を促す』(レスリー・ゼイン著、木内さと子訳/翔泳社)から内容の一部を抜粋・再編集。消費者に「直感」で選ばれるためのメソッドについて解説する。

 消費者が何も考えずに、自動的に“いつものモノ”を購入してしまう「直感的ブランド選好」はどのようにして誘発されるのか。ナイキの事例を基に考える。

何も考えず、自動的に商品を買ってもらう

 たいていの人が、ブランドというのはロゴや商品、あるいはサービスを指すと考えている。さらには、マーケティングキャンペーンや広告のコピー、SNSに出てきたターゲティング広告を思い浮かべるかもしれない。だが、それだけではない。

 ブランドとは、そのブランドとつながりのあるものすべてを指すのだ。単に商品やロゴだけではなく、そのブランドに関して脳がこれまでにつくったつながりのすべてだ。

 つまり、その会社で働く人たちかもしれないし、そのブランドを使う消費者や、そのブランドが心にもたらす無数のイメージ、考え、記憶なのかもしれない。簡単にいえば、ブランドとは、そこから連想されるものなのだ。

 どんなブランドであっても、目の前に見えているものよりもずっと大きな何かなのだと考えなければならない。そうしなければ、ずっと、小さくて限定された状態のままとなり、目指すべきところとは逆になってしまう。

 あるいは行動科学の用語で言うならば、ブランドの「セイリエンス(顕現性)」を高めたい、ということになる。セイリエンスとは、あらゆる選択肢のなかで際立つ能力のことである。人の脳は、ひっきりなしにあちこちから選択肢を突きつけられているため、ブランドのセイリエンスは、そのブランドが注目されるかどうか、そして最終的に選ばれるかどうかの決め手となる。