
デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。
本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。電動化・知能化という大転換期の真っ只中にある自動車業界。開発の効率化が急務となる中、お家芸の「モデルベース開発(MBD)」を武器に推し進めるマツダの「ものづくり革新」とは?
製品と開発の「最適化」をいち早く始めたマツダ
現代のビジネス環境は、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)という言葉に象徴されるように、変化が激しく予測が困難な状況にある。これに加え、とりわけ自動車業界は、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)という未来像に向けた変革が求められており、従来の経営では、この変革を乗り切ることは難しいことが目に見えている。
クルマ開発におけるコスト構造は、主にハードウエアと開発費で占められる。今後は、「電動化」と「知能化」という2つの方向性が大きなコスト負担となってくることから、“製品の最適化”と“開発の最適化”の両面から、より「効率性」を追求した経営が求められることになる。
自動車業界では、クルマの差別化を図るため、マイナーチェンジを含めたモデルチェンジが頻繁に行われている。新規の車両を開発するには5年以上の期間が必要とされ、場合によっては、プロトタイプ(試作品)の車両を何度も造り直す必要があり、多大な時間とコストを要することになる。
例えば、開発した制御システムは、実車で試験と検証を繰り返すことになるが、制御システムに異常や欠陥が見つかると手戻りが発生し、開発工程を上流からやり直すことになるため、時間とコストの両面で大きな負担が生まれることになる。
他方で、バッテリーやADAS(先進運転支援システム)、ソフトウエア定義車両(SDV)の開発など、電動化や知能化していくクルマの在り方は、車両の構造や制御システムに大規模化と複雑化をもたらすことになり、こうした多様化する市場ニーズへの迅速な対応にも、多くの時間やコストがかかることになる。
そのため、自動車業界では、その開発プロセスにおいて、制御システムなどをいかに短期間でコストをかけずに開発できるかが、開発競争における優位性を目指す企業にとって、大きな課題となっている。こうした課題にいち早く対応して、新たな開発手法を構築したのが、マツダである。