出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 あらゆる企業の現場で課せられている、「コスト抑制」と「生産性向上」という一見相反するミッション。しかし、安易な人員削減は現場を疲弊させ、予期せぬ反発を生みかねない。そこで注目したいのが、トヨタ生産方式の根底にある「線を引く」という考え方だ。2024年12月、さまざまな企業の現場へTPSの導入・指導を行ってきたOJTソリューションズが出版した『仕事の成果を最大化する トヨタのすごい線』の中身をひもときつつ、同社トレーナーの岡田憲三氏にムダを減らして生産性を高めるための方法論について聞いた。

根底にあるのは「人を大切にする改善」

――著書『仕事の成果を最大化する トヨタのすごい線』では、トヨタ生産方式の基本的な考え方として「つくり方によってコストが変わる」という発想があることに触れています。どの企業もコストダウンを目指していますが、コストダウンのために人員や作業時間を減らすことで現場にムリが生じたり、現場から不満が出たりすることもありそうです。トヨタはどのような対策を講じているのでしょうか。

岡田憲三氏(以下敬称略) トヨタではムダを徹底的に排除し、原価を低減することで利益を上げたい、という考え方が根底にあります。

 例えば、生産量を増加させる場合、トヨタではこれまでの人員、設備をそのままで急に「生産量を増やせ」と言われることはありません。まずは、投入工数(人員や設備)を増やすことから始まります。

 同様に、いきなり「人員や作業時間を減らせ」と言われることもありません。仮に現場の人間が走り回って実現できたとしても、それはムリをした結果ですから、トヨタ生産方式(TPS)の根本にある「働く人をより働きやすく、楽にする」という考え方には合致しないのです。

 こうした考え方のもと、単に人員を削減するのではなく「仕事のしくみを変えることでムダをなくし、生産性を上げる」という手法が採られています。

――仕事のしくみはどのように変えるのでしょうか。

岡田 ムダを見つけて改善する過程では、現場の意見を採り入れることに重きが置かれます。そして、仕事はすべて「書面に落とせる状態」まで具体化されます。

 例えば、「部品Aを何分、部品Bを何分、部品Cを何分で作る」といった形で、まず机上で成立するかどうかを考えます。今まで「ネジ締めに1分」かかっていたものを「明日から30秒で締めなさい」と言われても、それはできませんよね。しかし、今までは手で締めていたネジを「動力を使って締めてみてはどうか」「動力を使えば、30秒に短縮できるのではないか」「動力はどうすれば使えるようになるのか」など細かく検討することはできます。

 このようなしくみがつくられて、初めて人員を減らすことができます。仕事のしくみを変えることから始めることで、現場からの不平や不満が出ない、というわけです。