
生物界における突然変異のように、一人の個人が誰も予期せぬ巨大なイノベーションを起こすことがある。そのような奇跡はなぜ起こるのか? 本連載では『イノベーション全史』(BOW&PARTNERS)の著書がある京都大学産官学連携本部イノベーション・マネジメント・サイエンスの特定教授・木谷哲夫氏が、「イノベーター」個人に焦点を当て、イノベーションを起こすための条件は何かを探っていく。
今回取り上げるのはアマゾン創業者のジェフ・ベゾス。「インターネット利用者が年2300%で急増する」というデータに着目、メガトレンドと市場構造から逆算して、書籍通販でアマゾンの原型を築いた彼の思考法に迫る。
発想の背景:インターネットの急成長への着目
アマゾン創業者のジェフ・ベゾスはもともと物理学者志望だったが、才能の限界を感じて金融の分野で就職した。アマゾンを創業した当時の状況について、彼は以下のように書いている*。
「プリンストン大学を卒業した私はニューヨークに行き、クオンツ系ヘッジファンドで働くことになった。デヴィッド・ショーの経営するD・E・ショーという会社だ。入社したときたった30人だった社員は、私が辞めるころには300人ほどにもなっていた。」
「1994年にインターネットについて聞いたことがある人はほとんどいなかった。使っていたのは、科学者か物理学者くらいだった。D・E・ショーでは、限られたことに少しだけインターネットを使っていた。
そのときたまたま、ウェブ──ワールド・ワイド・ウェブ──が年率2300パーセントで伸びているらしいと知った。いま利用している人はとても少ないとはいえ、これだけの速さで伸びているものはかならず大きくなると思った。だからインターネットを使った商売を思いつけば、勝手に市場は伸びてくれて環境はよくなるだろうと考えた。」
*『Invent & Wander――ジェフ・ベゾス Collected Writings』(ジェフ・ベゾス、ウォルター・アイザックソン著、関美和訳、ダイヤモンド社)