生成AIの普及によって、AIとの共存方法が世界的に模索されているなか、人を幸せにするAI社会を創造・実現するにはどのような視点が重要なのか。
 早稲田大学教授(文学学術院、次世代ロボット研究機構 AIロボット研究所)の高橋利枝氏が、AIの社会実装による可能性と取り組むべき課題について語った講演の骨子をお届けする。

※本稿は、Japan Innovation Review主催の「第23回 DXフォーラム」における「基調講演:AIの社会実装が切り開く未来 ~日本における可能性と挑戦~/高橋利枝氏」(2024年12月に配信)をもとに制作しています。

AIがもたらす日本の未来の新たなチャンスとリスク

 電話やテレビ、インターネットなどのコミュニケーション技術は、人類や社会を進化させてきました。特に生成AIの出現は、インターネットの出現に匹敵するほどの大きな社会変容をもたらすと言われています。日本ではこのような現代のデジタル革命の時代を、「Society 5.0(ソサエティ5.0)」と呼んでいます。

 そして、AIは新たなチャンスを人々にもたらしています。例えば、人々が新たな能力を獲得し、自己実現が容易になることが挙げられます。それにより、多様性と社会的包摂(ソーシャルインクルージョン)が促進され、社会の持続可能性も高まるでしょう。

 一方で、データのバイアスによって差別や排除が強化されるリスクもあります。機密情報や個人情報が流出する危険性や誤情報や偽情報、ディープフェイクなどの悪用の恐れもあるでしょう。

 さらに、労働の代替やAIロボットとの共生により、失業問題が起こるほか、自己の存在意義が曖昧になり、人間性の喪失を招く危険性もあります。これらによって、社会全体がカオスに陥るかもしれません。