写真提供:共同通信社/日刊工業新聞/共同通信イメージズ

 ビジネスや投資に欠かせない「会計指標」。うまく使いこなすことができれば、決算書からビジネスの成果や課題が見えてくる。本稿では『見るだけでKPIの構造から使い方までわかる 会計指標の比較図鑑』(矢部謙介著/日本実業出版社)から内容の一部を抜粋・再編集。実在する会社の決算書を比較しながら、会計指標とビジネスの結びつきをさまざまな視点で分析する。

 ノンコア事業の売却などを通じて事業再編を進め、「脱製造業」を図ってきた日立製作所。2024年3月期決算では減収減益となったにもかかわらず、増収増益を達成したパナソニックホールディングス(HD)に対して、株価では大きく差をつけた。その理由を、両社におけるフリー・キャッシュ・フロー(FCF)の活用方針の違いから読み解く。

株主還元に対する姿勢が表れる配当性向、総還元性向
減収減益の日立が最高益のパナソニックに株価で大差をつけた理由

会計指標の比較図鑑』(日本実業出版社)

■「脱製造業」に突き進む、株主還元に積極的な日立製作所

 ここからは、日立製作所の決算書と株主還元指標について見ていくとともに、なぜ日立の株価が上昇した一方で、パナソニックHDの株価が伸び悩んでいるのか、その理由について解説しましょう。次ページの図は、2024年3月期の日立製作所における決算書を図解したものです。

 図左に示したB/Sの左側で最大の金額を占めているのは、流動資産(5兆8550億円)です。ここには、売上債権(契約資産を含む)が2兆9910億円、棚卸資産が1兆5110億円、現預金が7050億円計上されています。

 次に大きいのは、無形固定資産(のれんとその他の無形資産の合計、3兆5500億円)です。この大半はのれん(2兆3720億円)で、主にABBのパワーグリッド事業ならびにグローバルロジックを買収した際に計上されたものです。パナソニックHDと同様に、過去の大型M&AがB/Sの資産に大きな影響を与えています。

 一方で、有形固定資産は1兆2220億円となっており、2022年3月期における2兆4790億円から半減しています。また、この金額はパナソニックHDの1兆8300億円に比べてかなり少なくなっています。