
日本は今、深刻な人手不足に直面している。少子高齢化を背景に生じた構造的な変化は、長期的な社会課題として日本社会に立ちふさがり続ける。一方、グローバル企業のホワイトカラー業務では、進化するAIなどの影響を受けて人余りという課題が顕在化しつつある。日本経済と日本企業の成長のためには、柔軟な労働力移動が欠かせない。
『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)の著者、IGPIグループ会長の冨山和彦氏に、日本経済の再生と個々人のより良い働き方を実現するための道筋を聞いた。
日本企業は付加価値労働生産性を抑えざるを得なかった
──数十年にわたって、日本経済は低迷を続けています。経済を支える日本企業の多くも同様です。著書には「雇用を守るために付加価値労働生産性を抑えざるを得なかった」といった記述がありますが、事業成長によって雇用を守る、または拡大するという選択もあり得たのではないでしょうか。
冨山和彦氏(以下、敬称略) 成長を目指す取り組みは多くの企業で見られました。2000年前後には、EC(電子商取引)などの新事業を立ち上げた企業も多い。しかし、その大半はうまくいきませんでした。インターネットの普及、グローバル化の進展などを背景に、ゲームのルールが変わってしまったからです。例えて言えば、野球選手にサッカーをやらせるようなものです。
日本企業が育成した野球チームは、ある時期まで素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。その野球選手の中には、サッカーのうまい人もいるでしょう。「ウチは優秀な社員ぞろい。サッカーチームをつくっても世界で勝てる」と思った経営者もいるかもしれません。しかし、しょせんはアマチュアです。欧州のリーグで戦っているプロ選手の相手にはなりません。
新しい時代、新しいゲームのルールの下で事業を成長させるためには、新しい能力を持つ人材を採用し、育てる必要があります。過去数十年にわたって、多くの日本企業はその努力を怠りました。