「光電効果の法則に関する発見」でノーベル物理学賞を受賞したユダヤ人の理論物理学者アルベルト・アインシュタイン(1879~1955年)
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「ものづくり大国」として生産方式に磨きをかけてきた結果、日本が苦手になってしまった「価値の創造」をどう強化していけばよいのか。本連載では、『国産ロケットの父 糸川英夫のイノベーション』の著者であり、故・糸川英夫博士から直に10年以上学んだ田中猪夫氏が、価値創造の仕組みと実践法について余すところなく解説する。

 第11回では、科学、芸術など多くの分野で功績を残し、ノーベル賞受賞者の20%を占めると言われるユダヤ人の創造性を取り上げる。究極のポータブルスキルは、いかなる要素によって支えられているのか。

ユダヤ人のポータブルスキル

 ポータブルスキルとは特定の職業や業界に限定されず、さまざまな状況や分野で活用できるスキルのことを指す。創造性とは、問題解決、アイデアの発想、新しい方法でのアプローチなど、どの分野でも必要不可欠な究極のポータブルスキルだ。

 ユダヤ人は創造性豊かな民族だ。科学、芸術、文学、ビジネスなどさまざまな分野で大きな功績を残し、ノーベル賞受賞者の20%を占めるとまで言われている。

 しかし、ユダヤ人の歴史は移住の歴史とも言える。紀元前586年のバビロン捕囚によりパレスチナの地からバビロンに移住。西暦66~73年のローマ帝国とのユダヤ戦争により地中海沿岸地域に移住。中世のヨーロッパでの迫害によりオスマン帝国や北アフリカ、東欧などに移住。19世紀~20世紀初頭のロシア・東欧でのポグロム(暴力的破壊)によりアメリカや西ヨーロッパに移住。20世紀のホロコーストによりアメリカやパレスチナ地域に移住している。

 ここで話は飛ぶが、第5回で紹介した「オルタナティブ(代替案)を発見するチャート」を改めて見てみよう。

 ここには空間的デセンター(水平思考)として「①居をかえる」とある。デセンターとは自分という中心(センター)をずらすことを指す。つまり、今までとは違ったところに居をかえる(移住すること)ことは、今までとは違った視点に強制的にデセンターされることを意味する。

 ユダヤ人の歴史はまさに、居をかえる連続だった。しかも、迫害によるものなので、持ち運べるものはカバンに詰め込めるわずかなものと頭脳しかない。まさに、知識や創造性をポータブルせざるを得なかったのがユダヤ人なのだ。