大企業の経営幹部たちが学び始め、ビジネスパーソンの間で注目が高まるリベラルアーツ(教養)。グローバル化やデジタル化が進み、変化のスピードと複雑性が増す世界で起こるさまざまな事柄に対処するために、歴史や哲学なども踏まえた本質的な判断がリーダーに必要とされている。
本連載では、『世界のエリートが学んでいる教養書 必読100冊を1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の著書があるマーケティング戦略コンサルタント、ビジネス書作家の永井孝尚氏が、西洋哲学からエンジニアリングまで幅広い分野の教養について、日々のビジネスと関連付けて解説する。
第10回は、フランスの哲学者・政治思想家ジャン=ジャック・ルソーが1762年に著した『社会契約論』を取り上げる。ルソーの「一般意志」の考え方は、組織の全員が納得して合意形成する上で、どう参考になるのだろうか?
ロックが提唱した自由民主主義に、「違う」と反論したルソー
私たちは組織の中で、意見を出し合って合意形成している。この合意形成はなかなか難しい。「民主主義的に多数決で決めよう」と考える人も多いが、納得できず不満な人がいたりするとあとあと問題になることも多い。
私たちは日頃、何気なく「民主主義」という言葉を使っているが、教養を学ぶと普段使っているこの言葉の本質をより深く理解できるのだ。
今回は、前回に続いて民主主義がテーマだ。フランスの啓蒙思想家ジャン=ジャック・ルソーの著書『社会契約論』(中山元訳、光文社古典新訳文庫)を取り上げて、組織における合意形成のあるべき姿を考えてみよう。
前回、ジョン・ロックが提唱した自由民主主義思想を紹介した。おさらいすると、ロックは「人間は誰もが自由だが一人では生きられないので、国家という社会をつくり、その社会と契約している」と考えた。
そして国家を運営する政府に、社会が守るべきルールの制定(立法権力)と、そのルールの執行(執行権力)を任せて社会が回る仕組みを作り、こうした権力を持つ人を自分たちの中から選挙で選んで、政府に代表者を送ればいい、と考えた。私たちが選挙で政治家を選ぶのは、ロックが提唱したこの仕組みに基づいている。
このロックの思想に猛然と反対したのが、ルソーである。