日本ではコロナ禍を経て、サプライチェーンや経済安全保障の問題がクローズアップされることとなった。これを機に、日本でもサプライチェーンの再検討がなされるべきとの議論が起きてきたのである。中でも、中国との関係が検討対象となっている。

 中国は「世界の工場」として工業製品を世界中に多く輸出していると同時に、中国自身が世界中から多くの物品を輸入している巨大市場でもある。中国はそれゆえに自身の立場を使って、経済・貿易面での関係性を時に政治的な思惑で使うことがあった。

 例えば2017年、韓国へのTHAAD31の配備に反対した中国は、対抗措置として中国人観光客の団体による韓国ツアーを全面禁止にした。これにより、韓国を訪れる中国人観光客は激減し、韓国経済は大きな打撃を受けた。あるいは2021年には、中国は輸入していた台湾産パイナップルに害虫が見つかったことを理由に輸入を停止した。台湾の蔡英文(さいえいぶん)政権(当時)に対する圧力ともみられている。

 この時は台湾がそれまで生産量のうち2%しか輸出していなかった日本向けの輸出を増やすことで、新たな販路を開拓した。しかし中国以外の代替の取引先が見つからない場合、相手国が受けるダメージはより大きなものとなる。また、対象となるものが戦略物資に相当する場合も影響が大きい。輸入であれ輸出であれ、あるいは観光客でさえ、過度な中国依存は中国にいざという時に利用される弱みを握られることになりかねないため、中国以外の輸出入ルートを模索する動きが出始めたのだ。

 同時に、こうしたサプライチェーンの点検だけでなく、感染症の流行時や安全保障上の有事等の際にも必要な物資を確保できるよう、経済面からも国家の安全を保障できるような政策が必要だという話が出てきたのである。これが2021年から始まった、日本での経済安全保障の議論の背景の一つである。

半導体が「戦略物資化」した、もう一つの背景

 その際、マスクと同様、コロナ禍で注目が集まったのが半導体であった。

 日本は中国から半導体を輸入してはいないため、これはあくまでもコロナ禍における国際的な供給網の混乱によるものだが、2020年夏ごろから工場や主要港の操業停止で製造や物流に遅滞が出たことに加え、コロナ禍におけるテレワークの浸透によってパソコンなどの通信機器の重要が高まったことなども手伝って、2020年後半から世界的な半導体不足に見舞われた。

31:高高度ミサイル防衛システム/Terminal High Altitude Area Defense