「業務先生」はいつでも指導してくれている

 例えば、研究・開発現場の現場を例として考えてみる。研究・開発の仕事の特徴として、繰り返し性の少なさがあるだろう。似たようなテーマ・要望であっても、タイミングによって原材料費や競合の出方、技術動向など、外部環境の変化も受ける。もちろん、いつでも新規性を求められる、という業務もある。

 だからこそ、より一層目の前の日常業務は常に何かを教えてくれる先生である。業務先生はこんなことを聞いてくる。
「このテーマの変更点と変化点は何かしら?」
「このテーマの顧客価値は何なの?」
「このテーマで競争優位性を保つためのポイントは何だと思う?」
「君はこのテーマで何を学びたいのかしら?」

 担当者でないマネジャーでも同様だ。

「君、このテーマに納得していないよなぁ。何が不満だ?」
「納得していない部分について、上司の指示だからと飲み込むんじゃないぞ。現場は実践しないからな」
「どういう語り方をしたら、メンバーはより一層前向きに取り組んでくれるんだろうか?」
「この組織において、この取り組みはどんな意味を持つんだい?」

 あなたは、業務先生からの指導に応えているだろうか。確かに、先生はときに面倒くさい存在だ。反抗もしたくなるし、無視したくなる。しかし、基本的な指導を受けようともしないまま、他にもっと効果的な方法はないかと研修を受け続けても身にはつかない。もちろん少しは時間を要する。自分なりに考えないといけないし、もしかすると、そもそもこのテーマは本当にイケていなかったかもしれないと、パンドラの箱を開けてしまうかもしれない。しかし、イケていないテーマを実現させてしまうことほど無駄なことはない。

顧客も先生。声にならない指導をしてくれる

 さて、価値のないテーマだと気がついたおかげで、そのテーマに取り組むことをやめることができた。そして時間がぽっかりできたとしよう。するとなぜかそわそわしはじめる。自分には何の価値もないのではないか。無能だと思われるのではないか。上司も何か仕事をさせなければと焦り、これまたイケているかどうかわからないテーマを担当させてしまう。

 不安な気持ちはわかるが、あんなに欲しかった「時間」ができたのだから、まず堂々と深呼吸をして落ち着こう。その後、行動に移れないのだとしたら、顧客こそ先生だと思うといい。市場ではなく顧客だ。あなたの会社で販売している商品を買ってくれているお客さまがいる。何に使っているのだろうか。どうやって使っているのだろうか。実は諦めていることはないだろうか。あなたは「顧客の声は営業を通して共有しているが、通り一遍のことしか言わない」と嘆くかもしれない。ならば、自分が顧客に成り代わって本当の願いを考えてみよう。こちらから提案をしてみよう。もっと仲良くなれば話してくれるかもしれない・・

 どうだろうか、テーマがなくても十分成長できる。テーマがないからこそ、顧客価値というあまり意識できていなかったことについて成長が加速される。顧客も業務と同じで声にこそならないが、何でも問いかけてくれるのだ。

成長のために必要なのは時間ではない。覚悟だ。

 さて、ここまで日常業務での成長の考え方について、記してきた。恐らくあなたも「当たり前のことじゃないか」と思われただろう。その通りで、当たり前のことを意識してやりきるということがまずベースに必要だ。では、なぜできないか。本当は「できない自分がばれる」ということが怖いからではないか、と思うことがある。

 以前、プレゼンテーション研修をしたときに「両手は自然に体の横に預けるのが基本」と伝えたことがある。なぜなら、ボディランゲージが効果的に見えるからだ。ある年配の受講者が、その通りに体の横に手を置いたところ少し硬くなりぎこちなくなった。メンバーは「前の方がよかった(手の動きに特別意識がないため、自然ではあった)」と言ったが、私は「これでいい。挑戦をしているのだから、ぎこちないのは当たり前です」とはっきり言った。成長の過程は、一つの業務に多少時間を要するのは事実だし、何よりそんなダサい自分をさらけ出すことにもなる。「前の方がよかった」というメンバーが圧倒的に多かった、ということは、さらけ出したくない人がたくさんいる、ということだ。成長に必要なのは時間ではなく、ダサい自分をさらけ出せる覚悟だ。

 私は、このダサさが、涙がでるほどかっこいいと思う。もっと毎日の業務であなたの姿をさらけ出してほしいと思う。

コンサルタント 大﨑真奈美(おおさき まなみ)

R&Dコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

技術者・研究者の企画力向上や、R&D組織革新の支援に従事している。最近は、技術者・研究者の心に火をともすことをミッションとしており、「火おこし」役として日々実践・研究をしている。2児の母。カウンセラー資格を持っている。