イノベーション実現に終わりはない

 先日、管理部門の方から相談があった。現場の研究者から「新しいものの提案はよいが、提案したら製品になるのか」という疑問の声があがっているという。それに対してどう返すべきか、と悩んでいるのだ。

 まず結論からいうと、提案が必ず製品になるわけはない。会社の限られたリソースを使うのだから、新しい提案の製品化にリソースを割くということは、既存の事業にかけるリソースを少なくするということだ。現事業に関わっているメンバーからすれば、売れるか確証のない新製品にリソースを割く方が、リスクが高く感じる。そのリスクを理解してもなお魅力的に感じる提案でないと、リソースを割いてもらえないのが現状だ。

 また、仮に社内で優先順位が上がり、上市できても必ず売れるかどうかは分からない。開発者は顧客や社内の反応を見ながら絶えずテーマを変更し、「製品になるまでやり続ける」のが正解だと思う。

 最近、ある企業でイノベーター養成講座という場があり、私はそのファシリテーションを行っている。講座メンバーやその講座の関係で知り合った方々と議論をする中で、私は「イノベーションや新事業の実現に向けては、テーマ(コンセプト)を常に変化し続ける」のが当然である、ということを確信した。

 そして、半年や1年という短い期間でテーマへの確信を得られるわけでもない、ということも。もし、本当に新価値という観点で世の中にインパクトのある貢献をしたいと考えるのであれば、その道のりは10年スパンと考えていいだろう。