イノベーションテーマに必要な信頼のもとは実績ではなくアイデンティティ

 長い道のりを歩くのだと分かったとき、そこに必要なのは、何かを切り捨てる覚悟というよりも、追い続けられる「自分だけの理由、アイデンティティ」ではないかというのが私の仮説だ。自分自身が体験したことや自分が初めて発見した(と思う)こと、自分自身の特性や価値観とフィットすることなど、さまざまな視点がある。

 イノベーションテーマを検討する中では「なぜ自社が取り組むのか」ということは当たり前に問われるのだが「なぜ『あなたが』それに取り組むのか」ということは聞かれない。その理由が他人には共感されなくても、自分にとってのテーマとの“へその緒”と感じられるのであればまずは十分である。

 文章表現のインストラクターである山田ズーニー氏は著書の中で、自分自身というメディアの信頼性について触れている。「過去の自分とまったく切り離した今の自分や未来の自分を発信しても信頼されない」というのである。テーマアップをする際にはテーマの中身そのものに加えて「この人に任せてみたい」という信頼感や期待を持ってもらうことも重要である。

 これまで多くは、その人の業務における実績が信頼の礎になるといわれていた。ただ、変化の早い時代においては、過去の成果が必ずしも未来に生きない。そうすると、なぜこれを私がやるべきか、という「アイデンティティ」が説得力を持つようになるのである。