クリエーティブな発想はいきなり思いつくわけではない。何かと何かを結びつけることでさまざまなアイデアになる──。イノベーションのヒントをこう語るのは、P&Gや元日本コカ・コーラで「ジョイ」「綾鷹」「檸檬堂」などをヒットさせたJukebox Dreams代表取締役CEOの和佐高志氏だ。なぜ、次々とヒット商品を生み出すことができたのか。前編に続き、初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法 伝説のマーケターが語るヒット商品の作り方』(ダイヤモンド社)を上梓した和佐氏に、新たなマーケットを開拓する上でのポイントや、イノベーションの起こし方について聞いた。(後編/全2回)
■【前編】社内の反対を押し切ったブランド再生戦略、コカ・コーラ「綾鷹」大躍進の秘密
■【後編】大ヒットのコカ・コーラ「檸檬堂」、新規参入の成功が競合から歓迎された理由(今回)
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者をフォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから
必要なのは、消費者にとって「意味のある差別化」
──前編では、P&Gで取り組まれたマーケティングの実例や、コカ・コーラにおけるお茶カテゴリーの再生について聞きました。2007年には3つあったお茶飲料ブランドを、シェア2%だった「綾鷹」一本に集約し、2010年にはシェアを約7倍の15%にまで伸ばしました。この間、どのようなことに注力したのでしょうか。
和佐高志氏(以下敬称略) 購入意向調査を通じて、「綾鷹」はおいしいお茶と認識されていることがわかったので、「それをいかにして消費者に伝えるか」ということに力を注ぎました。そこで実施したのが「綾鷹チャレンジ」シリーズというテレビCMです。
このCMは、製品名を隠した4つのお茶から「急須に入れた緑茶に最も近いもの」を選んでもらう、というものです。「消費者編」や「料理人編」、舞妓さん100人に選んでもらう「舞妓編」を展開しました。このCMで使われた「選ばれたのは綾鷹でした」というフレーズを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
綾鷹がおいしいお茶だからこそ、「どれがおいしいですか?」というデモ(実演)ができれば選ばれる、という確信がありました。しかし、おいしいかどうかは個人の嗜好(しこう)なので、直接的な表現で問うことはできません。
そこで、「急須の味に近いかどうか」だけを聞きました。急須で入れたお茶はおいしいですよね。そこに一番近いのが綾鷹。つまり、急須のお茶に近い綾鷹はおいしい、という三段論法です。
元々、綾鷹には「おいしい」「濁っている」という明確なPOD(Point of Difference:差別化ポイント)があったものの、それを高級路線というニッチ市場で展開したことが問題でした。私はこれを「お茶市場のど真ん中」で勝負しました。他製品と値段が同じなのに「おいしい」「濁っている」「100人に聞くと、急須で入れたお茶に最も近いと言われる」、だからこそ「買わない理由はない」というストーリーです。
競合と差別化することは重要ですが、それが「消費者にとって意味があるかどうか」という点は大切です。せっかくのPODがあっても、わかりづらく、意味のないものでは選ばれません。
必要なことは、難しく考えることではなく、「消費者目線で見てみる」ということ。それを徹底することが次のヒットにつながります。