人的資本経営の実現に向けた取り組みが求められる中、先進的な企業の間で「DEIB」というキーワードが注目されつつある。「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公正性)」「インクルージョン(包含性)」を表す「DE&I」に、組織における居心地や心理的安全性などの「帰属意識」を意味する「ビロンギング」を加えた概念だ。
DEIBを推進する上で重要な要素となるのが、男女賃金間格差の解消だ。男女間の賃金格差はどのような原因から生じているのか。解消のために何が必要なのか。PwCジャパンの北尾聡子氏より共有された2023年3月期有価証券報告書における人的資本開示の分析結果を踏まえ、パーソルホールディングスの山崎涼子氏とメルカリの趙愛子氏が、これらのトピックについて実例を交え解説した。
本稿は、PwCコンサルティングが主催する全4回のセミナー「人的資本経営の実現に向けたDEIB戦略の重要性―DE&Iのその先―」のうち、2024年1月30日に配信された「第1回 人的資本開示2年目に向けた差別化ポイント―男女賃金格差の是正に向けた取り組み事例―」の内容を採録したものです。
女性の平均給与は男性の68%
不足する労働力人口を補うため、現在、働いている社員にどう活躍してもらい、企業の稼ぐ力をどう高めていくかが喫緊の課題となっている。こうした状況を背景に、改正内閣府令で2023年3月期から、「男女間賃金差異」などの情報を有価証券報告書へ記載することが大手企業に義務付けられた。対象は常時雇用されている労働者が301名以上で女性活躍推進法に基づいて賃金格差を開示しているなどの条件に合致する企業となっている。
開示が求められた「女性管理職比率」「男性育児休業取得率」「男女間賃金差異」の状況について調査を行ったPwCジャパンの北尾聡子氏は、対象とした890社のうち「3指標全てを公表している企業が9割を占めた」と説明。一方で、実績以外に会社が掲げる目標値を明らかにした企業や、連結ベースでデータを開示した企業はこれより少ないと指摘した。
調査では、女性管理職の比率を開示したのは890社中850社にのぼったが、単年度の数字のみを示した会社が9割だった。北尾氏は「過去からの推移は投資家、ステークホルダーともに関心がある」として、開示後2年目となる次回は、過去数年間の推移の開示も検討することを推奨した。
男女間賃金差異については、男性の平均給与を分母、女性の平均給与を分子としたとき、全業種の平均で68.0%となった。北尾氏は「(差異の少ない)上位(の業種)でもまだ72%だ。この差異の理由についての分析を詳細に行うことで、100%(の実現)に向けてどう対策するのかという対話につなげていただきたい」と訴えた。