BOOSTRY CEOの佐々木俊典氏(撮影:宮崎訓幸)

 暗号資産ビットコインから始まったブロックチェーン技術は、伝統的な金融にも応用され始めてきている。中でも、資産を証券化し、ブロックチェーン上で管理できるようにしたセキュリティトークンは、急速に市場規模を広げている。

 この分野で、独自のブロックチェーン「ibet for Fin」を用い、セキュリティトークン発行を可能にするソフトウエアを提供するのが野村ホールディングス傘下のBOOSTRYだ。セキュリティトークンの現在と未来について、さらにブロックチェーンを用いた金融の未来について、BOOSTRYの創業者でもある佐々木俊典社長に聞いた。

<ラインアップ>
【前編】野村HD傘下でデジタル証券事業を担うBOOSTRYの佐々木社長が抱く壮大な野望
【後編】野村HD傘下のBOOSTRY社長に聞く、分散型金融の実現に立ちはだかる「壁」とは(本稿)


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「ibet for Fin」をコンソーシアム型で展開する理由

――ブロックチェーンを用いた金融プロジェクトは、DeFi(分散型金融)などに用いられるパブリックチェーン※1のほかは、金融機関が内部的に運営するプライベートチェーン※2が中心です。ところが「ibet for Fin」は、複数の金融機関が参加するコンソーシアム型のチェーンです。なぜコンソーシアムチェーン※3にたどりついたのですか?

※1 誰でも参加できる公開されたブロックチェーン・ネットワークのこと
※2 アクセスが制限されたクローズドなブロックチェーン・ネットワークのこと
※3 プライベートチェーンとパブリックチェーンの中間に位置し、複数の組織や機関が共同で管理し、参加者を限定して運営するブロックチェーン・ネットワークのこと

佐々木 俊典/BOOSTRY CEO

筑波大学大学院システム情報工学研究科卒業後、SAPジャパンで金融機関のシステム開発に従事。2008年から野村證券の投資銀行部門で企業や自治体等の資金調達業務に従事して、さまざまな金融商品による資金調達の実務を経験。2016年から野村グループ内で新規事業開発部署に所属、2017年に野村ホールディングス子会社のN-Villageに所属してブロックチェーンを活用した資金調達の調査研究等に従事。2019年9月にBOOSTRYを立ち上げて現職。P2P金融とマーケティング×金融の実現に取り組み中。

佐々木俊典氏(以下敬称略) これはグローバルで見てもレアなプロジェクトで、だいたい皆さんプライベートチェーンかパブリックチェーンを使っています。われわれは、プライベートチェーンは使う意味が全く感じられないので、コンソーシアム型に優位性があると思っています。

 そもそもブロックチェーンは単に効率が悪いデータベースなんです。それをわざわざ使うのは、複数企業が共有して内容を見るため、書き込むためです。そのためには使う全員が平等であるのが前提だと思っていて、一社が独占した時点で、それはただの社内データベースになってしまいます。その観点からすると、プライベートチェーンはブロックチェーンを使う意義がないんです。

ibet for Finを使った取引では、一つのブロックチェーンを複数社が参照、更新を行うことで、簡単に情報共有が可能になる

 では、われわれが目指しているものをパブリックチェーンで実装できるかというと、当時も今もできません。というのも、パブリックチェーンは大なり小なりマイニング※4を前提としており、取引コストが高くなるからです。

※4 ブロックチェーン技術において、新しいトランザクション(取引)をブロックにまとめ、そのブロックをブロックチェーンに追加するプロセスのこと

 パブリックチェーンでコストゼロのネットワークができるのかというと、今のところ、解はありません。となると、マイニングコストも実質ゼロまで下げられるのは、業界の知っている者同士で作る、今のコンソーシアム型だと位置付けています。

ブロックチェーンには、ビットコインのように誰でも参加できるパブリック型、特定の企業がすべてを管理するプライベート型、そして複数社が共同で管理するコンソーシアム型がある。BOOSTRYが取り扱う「ibet for Fin」は複数の金融機関が共同で管理するコンソーシアム型のブロックチェーンだ