『ビジョナリー・カンパニー』『マネジメント』『競争の戦略』など、ビジネスリーダーたちが「座右の書」とするビジネス書の名著・古典は多数存在するが、あなたは何冊読んだことがあるだろうか。本連載では、『見るだけでわかるビジネス書図鑑』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者で、ビジネス書の目利きである荒木博行氏が、多くのビジネスパーソンに読み継がれる名著を厳選。多忙な読者が名著のエッセンスを素早くつかめるよう、ツボを押さえた解説とイラストで毎回1冊紹介する。変化が激しく、不透明な時代でも、名著を通じ、ビジネスの「定石」を知ることは、あなたの仕事にきっと役立つはずだ。
連載第4回は、マネジメントの新常識を打ち立て、世界で100万部を突破した名著『学習する組織――システム思考で未来を創造する 』(英治出版)を取り上げる。
<連載ラインアップ>
■第1回 『イノベーションのジレンマ』で考える、顧客の声は「救い」か「呪い」か
■第2回 『失敗の本質』に学ぶ、「組織の病」が企業にとって命取りになる本当の理由
■第3回 『知識創造企業』に学ぶ、組織に絶え間なくイノベーションを起こすには?
■第4回 『学習する組織』で考える、複雑すぎる世界で変革を遂げるための「5つの秘訣」(本稿)
■第5回 MIT上級講師の『U理論』に学ぶ、本物の「対話力」の鍛え方とは?
■第6回 新規事業への横槍はこう封じる 「両利きの経営」実現のための4つの要件とは
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あなたが所属する組織で、パワハラが起きたとする。その事実が、内部告発によって明るみに出た。
当事者は、加害者であるA部長、被害者であるBさん、そして告発をしたCさんだ。
あなたの組織は、おそらくA部長とBさんの間に具体的にどんなハラスメントがあったのかを把握するだろう。そして、ハラスメントの事実が確認された時、A部長は懲戒の対象となる。
さて、一件落着・・・
としてしまっていいだろうか?
もちろん、そんなに簡単に済ませていい話ではないはずだ。
パワハラが起きたというのは、A部長の属人的な原因だけでなく、パワハラが発生してしまう構造的要因があったかもしれない。たとえば過剰な目標に対するプレッシャーなどが根底にあり、それがA部長のパワハラ的行動を促進していた可能性がある。もしくはコミュニケーション力が欠如した人であっても、実績さえあればマネジメント層に昇格してしまう制度的問題があったことも考えられる。
もしそうだとするならば、A部長を外しても、別の場所で新たなハラスメントが発生するだけだろう。
これは一例だが、このように責任が一見明確に見える事象であっても、実は複雑な因果が組み合わさって起きている可能性があるのだ。
だからこそ、私たちは何らかの出来事が起きた時、その事態に「対処」するだけではなく、しっかりと事態から「学習」をしなくてはならない。
しかし、「学習」と口で言うのは簡単だが、実際にはこれほど難しいことはない。私たちの組織は、どれだけ頑張って学ぼうとしても学べないという「学習障害」を抱えているからだ。
では、その障害の正体は何か?
それは、端的に言えば「視野の狭さ」だ。「私の仕事はここからここまで」という範囲的な狭さであり、「私の仕事の成果はいつまで」という期間的な狭さにある。
視野を狭くすればするほど、「自分の限られた領域の」「短期的な」成果は上げやすくなる。しかし、そうやって細分化すればするほど、物事の表面だけに触れることになり、起きた出来事に対処するだけにとどまる。
冒頭のパワハラの件でも、「限定的」「短期的」な視野で処理しようと思えば、規則に則って当事者を処罰すればよい。「A部長が悪いんだ」と。しかし、繰り返すが、そこには「学習」という視点が欠けているのだ。
個人や組織は、そういった「学習障害」をどう克服して変革を成し遂げるべきなのか?それが描かれているのが、MITスローン経営大学院のピーター・センゲが書いた名著『学習する組織』だ。