2014年、日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の第5代チェアマンに、サッカー界以外から初めて村井満氏が起用され就任した。村井氏はリクルート勤務時代の経験から独自の「天日干し」という組織運営手法を生み出し、8年にわたってJリーグの経営改革を牽引。DAZNと10年間2100億円の配信契約を締結し、2019年には年間入場者数が過去最高を更新、過去最高の収益を記録するなど、Jリーグの発展に大きく貢献した。前編となる本記事では、同氏初となる著書『天日干し経営: 元リクルートのサッカーど素人がJリーグを経営した』(東洋経済新報社)の内容に触れつつ、チェアマンとして取り組んだデジタル改革や天日干し経営の考え方、活用シーンなどについて話を聞いた。
■【前編】元Jリーグチェアマン村井満氏、リクルート激震の経験が導いた門外漢の変革(今回)
■【後編】元Jリーグチェアマン村井満氏がコロナ下で「71回もの記者会見」を開いた狙い
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「天日干し」が組織を浄化し、透明性を高めてくれる
――ご著書のタイトルでもある「天日干し経営」ですが、「企業経営における天日干し」とはどのようなことを意味するのでしょうか。
村井満氏(以下敬称略) 洗濯物を天日に干すと雑菌の繁殖が抑えられ、魚の干物を天日に干すと旨味成分がつくられます。このように様々な効果がある「天日干し」の概念を経営手法に生かすことができないか、と常々考えてきました。
「自然界の天日」が「降り注ぐ太陽」だとすれば、「経営における天日」は「降り注ぐ関係者の視線」といえます。企業経営において、私たちはまるで太陽の光をいっぱいに受けるように、顧客、従業員、取引先など、様々なステークホルダーの視線を受けています。そうした関係者の視線をしっかりと受けることで組織が浄化されたり、透明性が増したり、組織力が高まったりするのではないか。このような仮説のもとに定義した考え方が「天日干し経営」です。
――天日干し経営の実践に至るようになった、そもそものきっかけは何だったのでしょうか。
村井 今でこそ「経営の根幹をなす考え方」として話していますが、元々は私自身がもがき苦しんだ経験から導かれた概念です。前職のリクルートでは「戦後最大の疑獄事件」と呼ばれたリクルート事件が経営を直撃し、現場でその対応と後始末に追われました。そしてその後、サッカー未経験者の私が想像もしていなかった「Jリーグのチェアマン」という職を引き受けることとなりました。
これらの職で共通していたことは、かつて経験したことのない仕事が降ってきて、それまでに身に着けてきたノウハウだけでは太刀打ちできない状況に追い込まれたことです。「未知の世界にどう立ち向かうか」という難題に直面したとき、自分を晒し、自分自身の考えや想いを鏡に映して、周りの視線からフィードバックをもらいながら、あるべき経営の姿を描いていくしかなかったのです。
――全てを晒して周囲の視線を浴びることは、勇気がいることだと思います。
村井 様々な方面から批判やお叱りの声を受けたとき、「経営者をやったことがないのに何がわかるのか」と排除したい気持ちになるのもわかります。しかし、天日は基本的に全ての人を照らすものですから、批判やお叱りの声を選り好みすべきではないのです。
特に、今はSNSを通じて情報が拡散されるため、見知らぬところで何が書き込まれているかわからない時代です。事実は一つかもしれませんが、人によって見え方や解釈は全く違います。その事実を受け入れること、知ることだけでも有用です。「自分が他者の目にどのように映っているのか」を客観的に捉え、現実に向き合うことは非常に大切です。