前回は、「データドリブン経営」を目指すための5つのポイントを紹介し、具体的なアクションについて述べた。
「今月の3つのアクションプラン」では、新規事業についてイメージする重要性を提案した。DXの目的の一つは、新規事業に着手できる環境を整えることだからだ。今、手がけているデジタル化の先に、どんな新しい事業を目指すのか。どうか、これを頭の片隅で描きながら、毎日の仕事に意味付けをしていただきたいと思う。
日本にデジタルが浸透しない理由
ご存じの通り、日本は今や「デジタル後進国」と呼ばれ、残念ながら「世界デジタル競争力ランキング」においても年々順位を下げている(2021年度28位、2022年度29位)。
その背景はどこにあるのか。本連載においても、さまざまな角度から述べてきたが、そもそも「デジタルの文化(カルチャー)が薄い」ことが根底にある。
下の図は、DXへの課題に対する日本と米国の意識調査である。
ちなみに、米国は言わずと知れたデジタル大国であり(2022年度の世界デジタル競争力ランキングで2位)、その意識の違いに「日本にデジタルが浸透しない理由」がある。
注目したいのが「全社的なデータの利活用の方針や文化がない」という問いへの回答だ。
米国はご存じの通り、多民族国家である。人種が違えば、当然、文化や生活習慣、宗教までもが多種多様だ。そうした異なる価値観の人たちでチームを組み、プロジェクトを推進していく場合、個人の主義や主観で物事を進めていくのは困難であるし、対立を生むかもしれない。その時、意思決定を司るのは何か。
ここに、過去のデータやエビデンスが功を奏するのである。データはうそをつかない。多種多様な人たちを納得させ、宗教や肌の色さえも超えて推進させる力がある。
一方、日本は米国のように民族に多様性はなく、組織は縦社会、何より先人の教えを尊ぶ傾向がある。「経験豊かな〇〇先輩が言うなら間違いない」と先人の経験則を信じ、意思決定を行ってきた歴史が長い。つまり、「裏付け」がなくとも、スムーズに物事が進んできたのだ。
ある時代ではそれは有効だっただろう。しかし、時は移り、先の予測が困難な時代になり世界中がデジタル化にまい進してもなお、日本は過去の成功体験や先人の勘所に頼ってきた。そのツケが今、大きな足かせとなって、わが国の経済を停滞させている。
日本企業の「人材不足」はなぜ起こるのか?
もう一度、先ほどの図をご覧いただきたい。
ここで日本企業と米国企業で最も乖離があったのが、「人材不足」に対する意識だ。「人材の確保が難しい」の問いに、日本企業の実に4割がYESと回答しているのに対し、米国企業はわずか14.1%しか、人材不足を課題に挙げていない。
また、下の図は人材の「量(人数)」と「質(スキル・パフォーマンス)」についての意識調査だが、日本企業は人数においては76.0%、スキル・パフォーマンスについては77.9%が不足していると回答している。これに対し、米国企業で人数が不足していると答えたのは43.1%、スキル・パフォーマンスが不足していると答えたのは49.3%だった。
この差はどこから生まれてくるのであろう。
もちろん、わが国の人口減少問題は深刻だ。特に、若年層の採用に関しては皆さまの企業でも苦労されているのではないだろうか。また、先の「デジタルが浸透しない日本独特のカルチャー」も、DX人材の育成に後れを取った要因の一つかもしれない。
しかし、そうした背景だけでは語れない、日本の企業風土や構造的課題というものに、私は何度か直面したことがある。
具体的な事例をご紹介しよう。