社会の変化に即した急速なDX対応が求められていることから、今、企業はDX知識を持つ人材の獲得、あるいは自社にいる人材を教育してDX人材を増やすことを急いでいる。そうした中、損害保険ジャパン(以下、損保ジャパン)はシステムを「作ってほしい側」の教育に着目し、2022年11月より「次世代システム対応人材育成プログラム」を開始した。システムを作る側ではなく作ってほしい側の教育に目を付けた理由とプログラムの内容、社内での受講者の反応と手応えについて、プログラムを担当するIT企画部計画推進グループの石井真澄氏に聞いた。

業務要件定義書に何を書けばいいのか分からない人をなくす

次世代システム対応人材育成プログラムのテキスト
石井 真澄/IT企画部 計画推進グループ課長代理

2005年日本興亜損害保険(現損保ジャパン)に入社。情報システム部にて勤務後、SOMPOシステムズへの出向を経て、2018年損保ジャパンIT企画部へ異動。業務要件定義工程の品質向上、IT投資効果管理を担当する。

 損保ジャパンは2022年11月より、システムを作ってほしい側の社員を対象とした「次世代システム対応人材育成プログラム」を開始した。社内でDX推進が進む中、そもそもDXを推進するにあたって現業務をどんな形に変革するべきか、システム化すべき仕事は何なのかを考えられる人材が不足していると感じたことがきっかけだ。

 「DX=システム化」と捉えられることも多いが、本来ならシステム開発はあくまで手段で、目的は今ある業務の効率を上げる、負担を減らすなどより良い状態へと変革することだ。しかし、このことを理解していないと、システムを作ることそのものが目的になってしまう。また理解していても、現場の声を聞きつつ各署に配慮して工程の全体を見通すには、システムを作るための技術だけではなくヒアリング力や課題の分析能力など複合的なスキルが求められる。

 損保ジャパンにはシステムを作る際、人のリソースや作業工数、プロセスなど必要な情報をまとめる業務要件定義書がある。これまで社内ではe-ラーニングや業務要件定義書の書き方などの研修は行っていたが、実際に定義書に書く内容になると頭を悩ませる社員が多かった。

 また、業務をシステム化する際に行う現場のヒアリングでも、システム担当者が本来は作らなくてもよい機能を要望する声を重視してしまう、逆にシステムを作り始めた後で必要な機能を盛り込めていないことが発覚して設計の見直しが入るなど、うまく進まないことが多かった。さらに自社のシステム子会社だけでなくビジネス本部(本社のビジネス部門)でもシステム管理者となるケースが増えてきており、社内全体がDXのスピード感を求める状況となっていた。

 そのため、実際に手を動かしてシステムを「作る側」ではなく、全体を取りまとめるシステムを「作ってほしい側」を対象にした研修を考えたのだ。