前回は、「データドリブン経営の可能性」について、未来の働き方、未来の企業の在り方とともにお伝えした。

 読者の皆さんに行ってもらいたい「今月の3つのアクション」では、自分や自社に置き換えて、未来を想像することを提案させていただいた。できるだけ、ワクワクしながらイメージしていただきたいと願った。それはDX、そしてCX(コーポレートトランスフォーメーション)の先にあるのは明るい未来であることを、皆さんにも感じていただきたかったからだ。

 未来の働き方を想像し、皆さんはどんなことを感じただろうか。

CXを目指すための小さな一歩

 CXが「企業の根本からの改革」であることは、前回、前々回で既に述べた通りである。

 とはいえ、あまりにゴールが遠過ぎて、何から手を付けたらよいか、途方に暮れてしまう方も多いだろう。

 下の図は、DXを推進するための具体的なアクションプランである。順に説明していこう。

(1)【データ化・電子化】煩雑な紙・Excel・PDFなどの手作業を必要とするものを電子化(デジタイズ)する

 どの企業にも、データ化すべきたくさんの情報が眠っている。特に日本の製造業は、その工程の緻密さから、職人一人一人の頭の中にこそ企業の資産であるあらゆるノウハウが存在しているはずだ。

 しかし、一番の問題は、それがデータ化されていないことだ。

 ある中堅・中小の製造業の現場で「過去10年間で受注が一番多い製品はなんですか?」と尋ねると、責任者が分厚いファイルを抱えて戻ってきた。皆で、一斉に10年分の帳票をめくり始める。このような光景が日本の製造業では多く見られる。データ化されていれば、クリック一つ、ものの数秒で答えが表示されるだろうに、だ。

 私が特に深刻な問題だと感じるのは、10年分の帳票を調べた結果、例えば「A」という製品が一番の売上をつくっていたとしよう。すると、必ず誰かが「やっぱりAだった!俺の思った通りだ!」と、誇らしげに語る光景である。

 誤解してほしくないのは「自分の予測が当たって喜ぶなんて、まるで子どものようだ」とその姿勢をたしなめたいわけではない。むしろ、何百・何千種類の製品の中から、見事売上ナンバーワン製品を言い当てる、その経験則たるや、いかに、その人材が優秀であるかを物語っているように思うのだ。

 しかし、その優秀さが問題なのである。「やっぱり、俺の思った通りだ!」の後にこう言葉が続くからである。「だったら別に、苦労してデータなんか取る必要ないんじゃないか?」。そうして、自分の頭を人差し指で指しながら、「ここに全て入ってるんだから」と、結局、データ化することにブレーキをかける存在になってしまうからである。

 その優秀な方に問いたい。

 あなたがいなくなったら、あなたのその頭脳は誰が引き継ぐのだろう?

 誰が「うちの強みは、Aのような精巧な製品を生み出せることだ」と、その技術や想いを継承してくれるのだろう?

 さらには、その過去の実績を元に、誰が正確な売上予測をしてくれるのだろう?

 もう一人、あなたのような優秀な人材を育てる? 

 それには、あと、何年かかるだろうか? 

 あえて、厳しいことを言わせてもらおう。あなたの分身を育てている間に、世界はますますデジタル化を進めていくだろう。過去のデータを元に最適解を導き出し、新たな価値を創造する企業がどんどん生まれているかもしれない。そんな時代になった時、「やった!俺の思った通りだ!」と過去の帳票を眺めている人間に、あなたにはなってほしくないのだ。

 では、どうすればいいのか?

 それは、情報をデータ化し、分析可能な状態にすることだ。

・印刷はしない。クラウドのフォルダで確認する

 出力した図面に作業の変更点が記入され、最新の図面は機器にマグネットで貼ってあるとする。この場合、万が一、工場内でその図面を紛失したら、最新版の図面をどうやって確認したらよいのだろうか。だから、情報のアップデートはデータ上で行い、クラウドのフォルダに常に最新の情報があるようにすることが重要になる。

・タブレットを導入することで、印刷レス

 いくらデータ化を徹底しても、工場内で作業中にノートパソコンを持ち歩くのは面倒だ。だから、タブレットを導入する。タブレットの画面を操作しながら、紙の図面に作業の変更指示を書き込むのと同じように図面データを更新していく。

 「自身の指の感覚、手触り」を重視する職人(品質検査や研磨などの工程では特に自身の手触りが重要になる)にとって、直感的に操作できるタブレットはキーボードのあるパソコンよりも受け入れられやすい。

・電子契約ツールで契約書を電子化

 折しも、2023年10月にインボイス制度がスタート、2024年1月には改正電子帳簿保存法も施行される。待ったなしである。これで、恐らく契約書は一斉に電子化されることとなり、「先方から、紙の契約書にしろと言われたんで」という状況も減っていくだろう。

・FaxをFaxゲートウェイで置き換えて電子化

 これまでも何度も触れてきたが、特に中小の企業においては、まだまだFaxでのやりとりが多い。このたびの法改正に伴い、できればFaxそのものの使用をなくすこともご検討いただきたいが、どうしても先方とのやりとりで必要な場合は、ぜひ、ゲートウェイサービスに切り替えてみてはいかがだろうか。これは、送信原稿をいったんネットワークへ保存した後で、相手先へ送信するサービスであり、パソコンやスマホからも操作ができる。

・見積書・納品書・請求書の電子化

 これらの帳票もまだまだ紙やPDFで行っている企業も多いだろう。それらはスキャナ保存が義務付けられることになるが、その手間も大きい。できれば、全てデータ管理したいところだ。

 しかし、よく耳にするのが「うちは電子化したいんですけど、先方が紙で請求書を送ってくるので」という声である。ここが日本企業の優しいところ、というより、むしろ自己主張できない弱さだ。「弊社は〇月より、全て電子化に移行します。紙の書類は受け取れなくなります。何卒、ご理解ください」と、なぜ理解を求めないのか?

 こうした一社一社の取り組みが、日本全体のDX化を推進させていくことを、ぜひ忘れずにいてほしい。

「ペーパーレス化」は2008年にGoogleが「Google App Engine」を発表し、クラウドサービスがスタートしたころから、全世界で本格的に始まっている。実に15年もの月日が流れた。「今さら始めても・・・」ではなく、今始めよう!