ファミリーレストランの「ロイヤルホスト」や天丼チェーンの「てんや」などを展開するロイヤルホールディングス(HD)。同社の菊地唯夫会長はロイヤルホストにおいて24時間営業の廃止や店舗休業日導入を推進し、勝ち残りのためには「規模の戦略的圧縮」が不可欠だと唱える。人手不足が慢性化する外食業界にあって、どのように人的資本経営を考えるべきか話を聞いた。
<ラインナップ>
【前編】コロナ禍で直面した3つの課題、進化して乗り越えるロイヤルホールディングス
【後編】24時間営業廃止、休業日拡大を図るロイヤルホスト「規模の戦略的圧縮」の狙い(今回)
従業員も大事なステークホルダーである
――人手不足がなかなか解消されない外食業界ですが、菊地会長が考える人的資本経営の要諦とはどのようなものでしょうか。
菊地唯夫氏(以下敬称略) 一番大事なことは、働く人をきちんとステークホルダーだと位置づけることだと思います。企業活動を通じて付加価値を生み出し、それを株主にも従業員にも分配する点がポイントでしょう。我々も従業員の賃上げは実施していますが、賃上げすればそれで人的資本経営かという話でもありません。
人的資本経営というからには、会社本位でなく働く人本位で考えるべきで、企業にとって従業員もステークホルダーであることを明確に言い続けることが重要です。
私はよくROE (株主資本利益率)と労働生産性を引き合いに話をするのですが、ROEと生産性は一見、まったく違う指標のように感じるでしょう。でもROEは株主資本をどれだけ投下してリターンを得るかという話で、労働生産性は働く人に労働力を提供してもらい、それに見合った付加価値を付けてもらうこと。ですから分母は双方とも経営資源のインプットで、分子はそれに伴うアウトプットという意味では同じなのです。
――従業員も大事なステークホルダーという点で、ロイヤルHDで何か実践していることはありますか。
菊地 たとえば投資家向けの決算説明会がありますが、我々は、私が社長に就いた翌年の2011年から、従業員向けの決算説明会をかれこれ10年以上実施しています。これも、株主も従業員も企業にとってステークホルダーであるという考え方が起点になっているからで、従業員にも株主同様に自分が勤めている会社のことをよく理解してもらわなければいけません。
本来あるべき「持続性のある人的資本経営」とは?
――ロイヤルホストは2017年に24時間営業の廃止を実行し、その後、元旦と大晦日含めて年間3日の店舗休業日を設定しました。今年はさらに年間5日、来年(2024年)は年間7日の店舗休業日まで拡大するそうですが。
菊地 株主価値と働く人の価値はトレードオフの関係になってはいけません。働く人にステークホルダーとしての分配を増やしたら株主への分配が減るというのでは持続性がありません。何もしなければトレードオフになってしまう株主と従業員の関係性を、どのようにトレードオフにしないかを経営者は必死に考えるべきでしょう。
我々が24時間営業を廃止しますと宣言して以降、コロナ禍の影響が大きかった2020年、2021年を除き、実は1店舗あたりの既存店売上高は上がっています。理由は、営業時間を短縮した代わりにランチやディナータイムにしっかりと人を配置したことでサービスが良くなり、ひいては売り上げが伸び、生産性も上がったからです。
さらに店舗休業日を設定したことで営業日が減るわけですから、普通は売り上げが下がりますが、逆に上がっています。元旦や大晦日を休んでもらうことで従業員みんながリフレッシュし、サービスも良くなっている。従業員がハッピーになり、株主にとっても売り上げが伸びてリターンが増えるのでトレードオフにはなっていません。
企業が成長している時はすべてのステークホルダーの満足度が上がってきます。新しい店ができてお客さまが喜び、従業員も昇格してボーナスも増えるし、株主の利益も増え、取引先も一緒に成長できる。
反対に成長が鈍化して生産性が低下してくると、すべてのステークホルダーが不満足の状態になってきます。お客さまからすれば店のクオリティが落ちたと映り、店長たちはボーナスが増えない、株主の利益も上積みがない、取引先も値引き交渉ばかりという負の連鎖に陥ってしまうのです。
そこで終わればまだいいほうで、負の連鎖が続くと分配する原資が小さくなってしまうので、ステークホルダーの間で利害対立が起きてきます。だからこそ生産性を上げ、分配する原資を大きくしてフェアに分配していく。これこそが本来あるべき持続性のある人的資本投資なのだと思います。