「ティール組織」の1つのアプローチとして、1000社以上で実践されている新しい組織デザインの手法「ホラクラシー」。本連載では、「ホラクラシー」の開発者の一人であるブライアン・ロバートソン氏の著書『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)――人と組織の創造性がめぐりだすチームデザイン』(監訳:吉原史郎、訳:瀧下哉代/英治出版)の一部を抜粋・再編集してお届けする。
前編では、アパレル関連の通販事業で名を馳せる米国ザッポス創業者のトニー・シェイ氏と著者との運命的な出会いのエピソードから、ホラクラシーが生み出す価値をひも解いた。後編となる本稿では、社員1500名(2013年当時)の大企業であるザッポスが、いかにしてホラクラシーを導入し、どのような果実を得ることができたのかを見ていこう。
<連載ラインアップ>
■前編 米国ザッポス創業者トニー・シェイ氏と「ホラクラシー」の運命的な出会い
■後編 ザッポスはいかにして「ホラクラシー」を導入したのか、その成果はいかに?(本稿)
■特別編 『ホラクラシー』著者 ブライアン・ロバートソン氏 ウェビナー採録記事
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権力を人ではなくプロセスに持たせる
ホラクラシーにおける権限の分配とは、リーダーの手から権限を取り上げて、単に他の誰かやグループに譲り渡すということではない。むしろ、権力の座はトップの人物からプロセスへと移譲されるのだ。この「プロセス」については、憲章で詳しく規定されている。ホラクラシーの憲章は汎用性が高い文書なので、この手法を使おうとするどんな組織にも適用でき、ひとたび正式に採択されると、組織の基本的なルールブックの役割を果たす。
そのルールとプロセスが最高の拠り所であり、それを採択した人物にさえ勝る。国家でも、憲章に立脚した議会が定める法律は大統領といえども無視できないのと同じで、ホラクラシー憲章も、独裁者ではなく、合法的なプロセスに組織の権力の座を置くことを定めるのである。
ホラクラシー憲章はオンラインで公開されているが、それを読まなければホラクラシーを学べないというわけじゃない。ルールブックを読むことが複雑な新しいゲームを学ぶための最善の道であることは、めったにないのだ。通常は、かいつまんでポイントを押さえてからとりあえずプレーを始めてみて、必要な時にルールブックを参照するほうがうまくいく。ただし、プレーヤー全員がルールブックがあることを知っていて、それに従うことに同意していることが重要だ。プレーの途中で誰かが好き勝手にルールを作れるなら、ゲームが成り立たないからだ。
ホラクラシーの実践を決めた組織が実行する最初のステップは、CEOが正式にホラクラシー憲章を採択し、自分の権力をホラクラシーのルールシステムに移譲することだ。勇気をもって権力を手放してホラクラシーのシステムに委ねることにより、リーダーは、組織のあらゆるレベルの隅々まで権限を分配する道を切り開くのである。
このように、個人的なリーダーシップから、憲章に従った権限の移譲へと移行することは、ホラクラシーの新しいパラダイムに絶対不可欠だ。善意あふれる偉大なリーダーをもってしても、トップダウンの権力システムでは、必ずと言ってよいほど上司と部下との間に親子のような力関係が生じてしまう。その結果、権限を剥奪された被害者意識の強い部下と、責任を一身に背負いみんなが感知したテンションへの対応も任されて、もういっぱいいっぱいの管理職、そういうよくあるパターンを避けるのはほとんど不可能だ。
ホラクラシーはマネジャーにこう伝える。「あなたの仕事はもう、みんなの問題を解決することでも、すべての責任を負うことでもありません」と。
また、部下にはこう伝える。「あなたには、自分の感知したテンションに対応する責任と、その権限があります」と。
たったこれだけの方向転換で、私たちの組織文化に根強くはびこる親子のような関係から全メンバーが救い出され、自律した、自己管理できる大人同士が能力を発揮し合う関係へと導かれる。この新しい関係においては、それぞれが組織のパーパスにかなったロールを担い、自分のロールを実行するための「リーダー」となる権限を持っている。