フレデリック・ラルー氏のベストセラー『ティール組織』でも紹介され、自主経営組織の革新的なフレームワークとして世界1000社以上が実践する「ホラクラシー」。その実践方法を記した書籍『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)』の出版を記念したウェビナーが8月26日に開催された。同書の著者であり、ホラクラシーの開発者であるブライアン・ロバートソン氏をゲストに迎え、監訳者でホラクラシー認定エージェント・認定コーチの吉原史郎氏が、ホラクラシーの背景哲学から実践の秘訣(ひけつ)、最新の動向まで余すところなく聞いた。

ホラクラシーのサマリーとホラクラシーの背景哲学とは

吉原史郎氏(以下、吉原) 本日はホラクラシーの哲学やエモーショナルな部分についてお聞きしたいと思っています。

 はじめに、ホラクラシーのサマリーとホラクラシーの背景哲学について教えてください。

『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)』の著者で、ホラクラシー開発者であるブライアン・ロバートソン氏

ブライアン・ロバートソン氏(以下、ロバートソン) ホラクラシーは、組織を運営するためのフレームワークです。従来のマネジメントのやり方も一つのフレームワーク、考え方であり、ホラクラシーも、もう一つの考え方です。これらは物事をどのように分散し、誰がどのような役割を持ってどう管理していくか、ということについての2つの異なるフレームワークだと思ってください。

 よく、誤解されるのですが、ホラクラシーでも従来の「マネジメント」をやめてしまうわけではありません。ホラクラシーにもマネジメントは存在します。マネジメント自体は必要なのです。ただし、それは「誰が、何をやり、どんな権限を持っていて、どのように仕事をしているか」という意味においてです。マネジメントのやり方として、「階層構造を固定化して誰かが誰かに命令をするというやり方は必要ない」というのがホラクラシーの考え方です。

 ホラクラシーはマネジャーがいないという点で、従来型のマネジメントと違うと理解してください。組織がやりたいこと、実現したいことがあって、どのように役割分担をして、誰が何をやるかを決めるという「意図」は従来型のマネジメントと同じです。しかし、ホラクラシーではこれらをマネジャーが決めるのではなく、ルールが決めます。

 多くの人は、ホラクラシーはマネジメントの外にあるものだと思っているようですが、実はそうではなく、マネジメントを進化させるものです。私たちのやり方を日々より良いものにしていく考え方であり、呼吸をするようにごく自然な形で、マネジメント自体はずっと存在します。

 基本的に私は、もしホラクラシーがうまくいかない、その組織が本当にパーパスを実現するために機能しないのであれば、すぐに「ホラクラシーをやめてください」と伝えます。ホラクラシーの背後にある「哲学」というものが、いつも非常に誤解されていると思っています。ホラクラシーが一番大事にしているのは、「パーパスに奉仕する」ことができるかどうかです。その背景に「人間は平等でなければならない」という哲学などがあるわけではありません。実際にパーパスを実現できる。そのために非常に有効だから、小さい声をしっかり聞いて、それをきちんと使っていく、ということをしているのであって、「哲学があってホラクラシーが道具である」わけではない。とにかく、パーパスを実現できるかどうかがポイントです。

 世界はどんどん複雑になってきています。だからこそ、誰かが予測して「こうしましょう」と計画をするやり方ではもう無理なので、違う原理原則で動かそうとしているのです。