実績管理強化の難しいところは何か?解決のポイントは何か?

 データの蓄積自体は、お金をかければ実現できる。ただし、単にデータの蓄積だけでは、実績管理強化とは言えない。データの管理・活用方法をデザインする必要がある。ここが、実績管理強化の難しいところである。

 データの管理・活用方法をデザインする最も重要なポイントは、「データ量」の設定である。さらに、データ量設定のポイントは、データの「広さ」、「細かさ」、「頻度」の3つの要素を考慮することである。広さとは、情報を取得する範囲のことを指し、細かさとはデータ取得の詳細さを指し、頻度は、データを取得する回数や間隔を指す。

 例えば、組立職場の進捗管理を考えると、データの「広さ」は、ライン組立生産方式であれば、「初工程のみ」の投入日時や投入量を実績管理すれば、仕掛全体の進捗(しんちょく)を管理することが可能であると言われている。他方、セル組立生産方式であれば、各職場単位で実績管理をする必要がある。一方で、データの「細かさ」は、ライン組立生産方式はサイクルタイムの値が小さい傾向にあるので、投入日時を「時間単位」ではなく、「秒単位」の細かさで管理する必要がある。他方、セル組立生産方式であれば、サイクルタイムの値が大きい傾向にあるので、分または時間単位の細かさで管理すればよい。

 上記のように、他社の事例やフレームワークが、自社工場に合うとは限らない。合わない場合、必要以上に詳細なデータが蓄積されるだけで、管理や活用がやりきれないことがある。データ量の設定は各工場の特性に合わせて決定する必要がある。

実績管理強化の先は直接業務と間接業務へのAI実装

 実績管理強化により生産データが蓄積・解析され、フィードフォワード・フィードバックのシステムが確立されれば、インプット条件のリアルタイム最適化や、問題の予兆管理・事前対処が可能になる。

 データ量が多くなればなるほど、データのパラメータ間の関係性が複雑になり、人間による対応が難しくなる。そのため、AI実装が有効である。AIは、学習するデータ量が多量になればなるほど精度が向上すると言われている。量が質になるというわけだ(もちろん過学習のリスクもあるが、ここでは言及を避ける)。

 AI実装は、直接作業に限った話ではない。計画業務などの間接業務にも応用が期待される。現在、ほとんどの企業では、生産管理者や生産技術者、製造技術者が生産計画の立案や生産技術条件の検討、現場への作業指示、搬送指示などを担当している。将来的には、このような業務にAIを実装することが期待されている。AI実装イメージは、AIが出力した指示がシミュレーション(デジタルツイン)で検証され、その結果が許容範囲であることが確認されたら、生産現場に反映されるというものだ。

 これを実現するためには、最新のデジタルソリューションの導入だけでなく、業務レベルの成熟も重要である。どのような実装を行うにせよ、実績管理が適切に行われていることが大前提となる。

最後に

 これまでの話をまとめ、AI興隆のこのご時世に求められる新工場建設プロジェクトを効果的に進めるために私は皆さんに次のことをお伝えしたい。

実績管理強化により、新工場の企画の妥当性や実現性向上が期待でき、その先に、工場へのAIの実装が期待される。

これらの期待に応えるためには、データ量の設定などのポイントを抑えながら、実績管理を単なるデータの蓄積ではなく、適切なデータの管理・活用と捉えて、その強化に取り組むことが重要だ。

 実績管理の強化がなぜ重要なのか、その目的をしっかりと理解していただければ幸いである。

コンサルタント 八木亮介 (やぎ りょうすけ)

生産コンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント

新工場建設における生産システムの立ち上げなど、工程シミュレーションツールを活用した生産システムデザインを行っている。新工場建設で必要な改革施策のスキーム設計や、プランニングなどの改革に関するPMO経験なども行っている。

おもなコンサルティングテーマ
新工場建設プロジェクト推進支援、製造現場の生産性向上、
生産システム改革、生産管理システム改革、自動化検討支援