「VUCAの時代」が戯言だったと思われるほど、社会が激しい変化に見舞われる昨今。5年後、10年後どころか、コロナ禍の初期には数カ月先の暮らしぶりも見えない状況に世界が直面した。このような時代にあって、この先3年、5年、そして10年後にも価値を持ち続けるビジネススキルとは何か。外資系企業を中心に、長らく事業会社でマーケティングに携わり、多数の著書も持つソフトバンク株式会社の井上大輔氏が説く。

※本コンテンツは、2022年7月1日(金)に開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催「第5回 Marketing&Sales Innovation Forum」の特別講演1「変わり続ける時代に、10年後も変わらず価値あるスキルを磨く」の内容を採録したものです。

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価値を創造し伝達するマーケティングの活動は、社会のあらゆる断面に存在している

 変化の激しい時代には、せっかく身につけたスキルが数年、それどころか半年もたたずに役立たなくなることがある。ソフトバンク 新規事業開発本部 新規事業開発統括部 統括部長の井上大輔氏は「太古の昔から今も、この先も、変わらず価値を持ち続けるスキルは何か?という自問自答を繰り返し、たどり着いた答えがあります」と話す。

「相手の求めるものを理解し、それを創り出し、『ここに価値あるものがある』としっかり伝えていくこと。それを徹底できれば、古代ローマでも商人として成功することができたはずです。時代を現代まで早送りすると、顧客の求めるものは多様化・複雑化し、時に顧客自身ですらそれを見失うことがあります。そうしたスキルの重要性は、変わらないどころかむしろ高まっているのです」(井上氏)

「マーケティングとは、顧客やクライアント、パートナー、そして社会全体にとって、価値のある提供物を創造、伝達、運搬、交換する、活動・組織・プロセスである」。井上氏は全米マーケティング協会の定義を引用する。

 ここにあるように、マーケティングの対象は顧客・クライアントだけではない。慈善団体が寄付を募る、政治家が投票を呼び掛ける、などという場面でもその考え方を活かすことができる。また、マーケティングは、必ずしも専門のマーケティング組織だけが行うものではない。「価値のある提供物を創造し、伝達し、運搬し、交換する」という活動やプロセスは、ビジネスのあらゆる断面に存在しているのだ。

「市場調査」をしなくても市場選びの解像度をあげる5つの視点

 この講演では、マーケティングを大きく4つのプロセスに分けて考えている。「市場の定義」「価値の定義」「価値の創造」「価値の伝達」だ。