将来的にメタはこれらバーチャル空間でユーザーに対する物販やサービス販売などを収益源とし、さらには広告でもマネタイズしたいと目論んでいるようだが、ゴールは遠い。2022年10~12月期(四半期)にはメタバース部門だけで何と42億7900万ドル(約5000億円)もの赤字を計上したとされる。

「過度な期待」のピーク期の後は「幻滅期」に突入

 メタが構想するホライゾンワールドの世界観を擬似体験的に触れることができるクールな映像資料がある。2018年4月に公開されたSF映画『レディ・プレイヤー1』(スティーブン・スピルバーグ監督/ワーナーブラザーズ)だ。

 近未来、誰もがSNSを利用するような感覚で毎日、バーチャル空間に入り浸り、ゲームや会話など非日常的な没入体験を繰り返す。映像の演出として出演者の3次元の立体的な感覚がもたらすリアルで生身の人間のような身体性と、それとは逆の価値観であるアバター(分身)をまとう変身性のギャップが興味深い。

 また、大勢の人間がバーチャル空間に集まれば、自然と市場が形成され、ビジネスが動き出す。そしてそこに集まる巨大マネーを巡って不正や、アバター同士の争い事も起きる(多くの人が現実逃避のために入り込んだ仮想世界が、実は荒廃したリアル世界以上にヤバイ世界である、というのがこの映画の隠されたメッセージかもしれない)。

(参考)映画『レディ・プレイヤー1』の予告編映像(YouTubeより)

『レディ・プレイヤー1が封切られた当時、筆者としては、まもなくやってくる新たなバーチャル空間「メタバース」の光と影を垣間見た思いがしたのであるが、残念ながら昨今のメタの動向を見るに、二度目の幻滅を味わっている印象を禁じ得ない。一度目の幻滅は2000年代初頭であった。筆者は米リンデン・ラボがリリースした「セカンドライフ」に飛び付き、ほどなく幻滅を感じて離脱した。

 ところでガートナー社の「ハイプ・サイクル」については最先端テクノロジーのビジネス利用に関心のある読者なら一度は耳にしたことがあるだろう。

 縦軸に「期待度」、横軸に「時間」を取ると最先端テクノロジーのビジネス利用とリスク許容度の関係は英語の大文字の「N」のようなカーブ型のグラフになることが知られている。

 最初の「黎明期」は多くの場合、使用可能な製品が存在せず、実用化のめども立っていないので周囲の期待度は低い状態である。しかし、その後、数多くのサクセスストーリーが紹介されるようになると「過度な期待」を集めるようになる。実際にファイスブックがメタに社名変更する宣言を行った少し前から米エピックゲームズの「フォートナイト(Fortnight)」や任天堂の「あつまれ 動物の森」がメタバース関連銘柄ということで大きな注目を集めていた。しかし報道されないだけで陰では失敗を伴うものも少なくなかったはずだ。

「過度な期待」のピーク期の反動は大きい。失敗が続き、実験や実装で一向に効果が出ないと人々の関心は薄れ、テクノロジーの創造者たちは淘汰・再編される運命にある。これが今、メタを筆頭にメタバース業界に暗く厚く垂れ込めている「幻滅期」だ。