「適正な規模」としての賑わいが戻った「CES 2023」。基調講演のメイン会場であるベネチアンホテルのPalazzo Ballroomは毎回満員の盛況を見せた。来場者がほぼノーマスクであることに注目(筆者撮影)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 毎年、年初に米国ラスベガスを舞台に開催される世界最大規模の民生技術のイベント「CES」(シー・イー・エス)。今年(2023年)の「CES 2023」は1月3日午後のメディアデーからスタート、1月5日からは一般来場者を加えて正式開幕、1月8日まで全6日間の会期を終えた。

 CES主催者のCTA(全米民生技術協会)によれば、世界からの来場者は11万5000人。3200社以上もの企業やスタートアップが参加し、1000社以上は今回が初参加だったという。

 筆者はコロナ禍でリアル開催が中止になった2021年を除けば2012年から毎年、CESに通い続けて「定点観測」を続けている。筆者の体感的には、今回のCESはコロナ禍という未曾有の災難を克服し、最先端テックイベントとして、その充実した内容に相応しい賑わいを取り戻した印象だ。

 CES 2023はコロナ禍前の最盛期「CES 2020」の来場者17万5000人、参加企業約4500社には及ばないものの、今を思えば当時の混雑ぶりは常軌を逸していた部分があった。逆にリアル開催が復活した「CES 2022」は直前の新型コロナ再流行の影響もあり、それぞれ4万人、約2300社とCESの存続が危ぶまれるような寂しい状況だった。そのように考えると、CES 2023はイベントとしてむしろ「適正な規模」に落ち着いたとも言える。

 ちなみにCES 2020との動員の差分は何かといえば、中国企業、中国人の存在の有無だ。米中経済戦争によって、中国の家電メーカー(例:Hisense、TCL)を除くとドローン大手(例:DJI)、半導体大手(例:ファーウェイ)、ロボティクス関連の数多の企業が実質、米国市場から締め出された。さらに米疾病対策センター(CDC)の発令した中国大陸からの旅行客の防疫強化措置に呼応する形で、CTAが中国発の来場者の入館バッジの発行の際に新型コロナ陰性確認書の提出を義務付けたことが、減少の決定的な要因になったと推察される。

CTAが発表した「CES 2023」の主要テックトレンド

 CESはその規模の巨大さゆえに、参加者が短時間でその全貌をつかむことは難しい。その中で手がかりとして非常に頼りになるのが、プレス対象のメディアデーの冒頭に毎年行われるCTA主催の「Tech Trends to Watch」である。

 CES 2023でも毎年の登場ですっかりお馴染みとなったCTAのリサーチ担当のバイスプレジデント、スティーブ・コーニング氏が以下のようなスライドを使い、CES 2023の主要なテクノロジーテーマを6つ紹介した。

CTAが発表したCES 2023の主要なテクノロジーテーマ(出所:CES.tech)

(1)企業のテックイノベーション

 コロナ禍、米中経済戦争、ウクライナ戦争などで顕在化したサプライチェーン問題、半導体不足、労働力不足、インフレと高金利に対して企業がロジスティックスと工場の自動化を促進する

(2)メタバース/ウェブ3.0

 メタバースが身近になる。仮想化や没入体験が生活のあらゆるところに入り込む(コーニング氏はIoTに引っ掛けて「MoT(Metaverse of Things)」と表現した)。メタバースを利用した小売、「匂い」の技術(Digital Scent Technology)に注目

(3)移動/モビリティ

 自動車のEV化の進展と電池のエコシステムの構築。自動運転システムとアプリケーションの進化。車内における体験の変容(大型スクリーン、音声コントロール、エンテーテインメント系のサービスなど)。自動車だけでなく、バイク、自転車、車椅子などの電動化。船や飛行機の電動化も進む

(4)ヘルステクノロジー

 遠隔診療で家庭が新たなヘルスハブになる。オンデマンドの治療ネットワークの構築、メンタルのウェルネスの充実、バーチャルリアリティの医療への活用など。アメリカの医療制度の未来をテーマにした基調講演「アメリカのヘルスケアの未来:新たなハイブリッドモデル」(注)が開催

(注)この基調講演はアメリカの医療制度に影響力を持つ5名の医療専門家によるパネルディスカッション形式で1月6日に開催された。アメリカではコロナ禍で遠隔医療は1700%も増加したという。アメリカのヘルスケアは(従来のリアルの診療に加え)デジタルテクノロジーの活用を加えたハイブリッドの形式を取ることが必要という。具体的には遠隔診療の拡大のために医療提供者がアクセスできる医療データの統合や医療データネットワークの整備について議論された。