(5)サステナビリティ
テクノロジーをサステナビリティに活用する。具体的には水の浄化、グリーンエネルギー、電池技術など。ドローン、インテリジェントサイロ、農業ロボットを導入した未来の農業の実現。世界最大の農機具メーカー、ジョンディアのCEO、ジョン・メイが基調講演に登壇
(6)ゲームや関連サービス
全米には1億6400万人ものゲーマー(13~64歳)が存在し、市場規模は1510億ドルにもなる。ゲームによって人と人、デバイス間のつながりが強化される
一気通貫するテーマは「人間の安全保障」
スティーブ・コーニング氏のプレゼンは(あくまでリサーチのプロによるテクノロジー視点からの分析ということもあり)「サステナビリティ」は注目すべき最先端テックの1つという位置づけに過ぎなかった。しかしながら、CESを主催するCTAが世界へ向けて発信する戦略的なメッセージという角度から見るとそのポジショニングは全く違ってくる。「サステナビリティ」はCES 2023を一気通貫する中核的なテーマであると同時に、世界中の企業が最先端テックを開発・推進する「パーパス」(社会的な存在理由)であるべきという位置づけなのだ。
1月5日の朝一番、ジョンディアの基調講演が始まる直前の「CTA State of Industry」において、CTAのプレジデント&CEOのゲイリー・シャピロは、CES 2023が国連の支援するヒューマンセキュリティの団体「世界芸術科学アカデミー」(World Academy of Art and Science:WAAS)とパートナーシップを結んだこと、CTA が世界芸術アカデミーの推進する「Human Security for All」(HS4A)キャンペーンを強力に支援していくことを表明してこう宣言した。
「このテーマはテクノロジーが世界をより良くするために何ができるかに焦点を当てています。目標はテクノロジーを使って物事を楽しく便利にするだけではなく、食糧や水の安全保障、気候変動、エネルギーさらには医療や人権・ダイバーシティに至るまで、地球規模の問題に対処することです」
ヒューマンセキュリティは「人間の安全保障」と翻訳される、サステナビリティを考える上で重要なキーワードである。個々の人間の安寧を保障すべきであるという安全保障のコンセプトで、「国家の安全保障」という概念と相互依存、相互補完の関係にある。
ヒューマンセキュリティには、ゲイリー・シャピロのプレゼンでも触れられていたように、要素として「食糧安全保障(フードセキュリティ)」「ヘルスケア」「個人の収入」「環境保護」「個人の安全」「コミュニティの安全保障」「政治的な自由」などが含まれる。しかも見落としてはならないのは、これらの問題が単独で存在するのではなく、相互に因果や相関関係で繋がっているということだ。企業にはパッチワークではなく、一気にゲームチェンジを起こすような大技が求められる。
(参考)「コロナや戦争を乗り越えリアル開催、『CES』が示すテクノロジーの先端用途 世界的課題『ヒューマンセキュリティ』にいかに貢献できるか?」(「JDIR」2022.9.9)
また今回、初めて発信されることになったCESのキャッチコピーは「BE IN IT」(その中に入れ)である。「BE IN IT」はメタバース、モビリティ、サステナビリティ、デジタルエコノミー・・・に自ら進んであなたの未来を預けよう(英語では、give your future self-access to what’s next for the metaverse, mobility, sustainability, the digital economy and more.)という形で、主催者CTAから参加企業、来場者に対して強い勧誘のニュアンスを含んでいる。
「Human Security for All」と「BE IN IT」が今年のCESを象徴する形で、基調講演や記者会見で、展示会場で、そしてラスベガス市内のいたるところで強い存在感を放っていた。主催者側のメッセージがこのような形で強烈に発信されたのは、少なくともこの10年間では筆者の記憶にないことだ。