同時にサステナビリティ経営の側面でも、ボッシュは多くの企業のお手本になる卓越した会社だ。2018年に発表した「2020年末までにボッシュの全400拠点をカーボンニュートラル(CO2の排出量と吸収量が同じになること)にする」という取り組みを世界で初めて有言実行しただけでなく、北米で展開された「Sustainable#LikeABosh」(ボッシュのようにサステイナブルな生活をしよう)のブランド広告キャンペーンでは、「カーボンフットプリント(CO2の足跡)を削減する」だけでなく、「エネルギーを節約する」「水を節約する」そして「電力のロスを削減する」ことに対して、広く生活者向けに啓発活動を行なった。
(参考)「起死回生を狙う日本のテック企業はボッシュを目指せ 『サステイナブル#LikeABosch』CES 2021で示した有言実行」(「JDIR」2021.2.9)
今回のCESでボッシュがフィーチャーしたのは、さまざまなセンサーの中でも重要かつ幅広く使われている「マイクロ エレクトロ メカニカル システム(MEMS)」センサーだ。
今日、自動車1台あたり平均22個のボッシュのMEMSセンサーが搭載されていることから推察されるように、その市場は急速に拡大している。ボッシュは1995年以降、180億個のMEMSセンサーの生産を開始したが、直近のわずか5年間で、それ以前の全生産量と同じ量を生産したという。
MEMSセンサーが最初に普及したのは前述のように自動車業界である。ボッシュのセンサーは車載ナビゲーションに活用され、エアバッグや横滑り防止装置(ESC)を制御し、走行安全性、快適性、利便性、効率性を高めるさまざまな運転支援機能を可能にしてきた。自動運転においては、センサーは「目」や「耳」の機能を担う。自動運転には不可欠なレーダー、LiDAR、ビデオ、超音波センサーに組み込まれ、車両の安全性を高めることで人の命を守っている。
CES 2023において、CTAから「CESベスト・オブ・イノベーションアワード」を授与された「RideCare companion」は、ネットワーク化および自動化されたモビリティにおいて、すべての車両乗員の安全性を強化するために活用されるカメラ、ワイヤレスSOSボタン、クラウドベースのデータサービスからなるネットワーク化されたハードウェアおよびソフトウェアソリューションである。事故やその他の危険な状況が発生した場合、ドライバーはこれを使用して24時間いつでもボッシュのオペレーターに連絡することができるという。
ボッシュの取り組みはヒューマンセキュリティの複数の領域でゲームチェンジャーになる可能性を秘めている。MEMSセンサーは自動車業界だけではなく、ヘルスケアの領域でも存在感が増している。医療機器メーカーのアボットが提供している心臓病、てんかん、糖尿病などの疾患に対して患者をサポートするセンシングギアなどがそうだ。
「共生」を掲げるキヤノンが打ち出した4つの映像ソリューション
キヤノンUSA(以下、キヤノン)は昨年(2022年)の記者会見に引き続き、小川一登社長兼CEOが登壇した。米国社会に根付いた企業として、「KYOSEI(共生)」という企業フィロソフィを大切にしながら、コロナ禍の中で社員や顧客のインサイトの変化を敏感に捉えてイノベーションを進めてきたことが冒頭で説明された。
ちなみに「共生」はキヤノンが創立50周年の翌年1988年に制定した企業理念であり、サステナビリティが今日のように声高に叫ばれるかなり以前から社内で共有・尊重されてきた考え方である。
キヤノンは「イメージングとイノベーションのエキスパート」であることを自負している。今回のCES 2023では、人々のクリエイティビティとコラボレーションをさらに高めることを狙い、「Limitless is More」をコンセプトに人々がコロナ禍で直面する様々な「Limit」(障壁、社会課題。具体的には孤立やフラストレーション)を取り除く最先端のXR映像ソリューションを4点打ち出した。
映像系のソリューションの紹介には魅力的でわかりやすいコンテンツが必要だ。CES 2023のために、キヤノンは『シックス・センス』『サイン』『ビレッジ』などの代表作を持つ著名な映画監督 Mナイト・シャマラン氏とパートナーシップを結び、新作映画『Knock at the Cabin』(今年2月米国公開。日本公開は4月予定)をモチーフにした没入型体験を記者会見と展示ブースの演出の柱に据えた。
キヤノンが今回打ち出した4つの映像ソリューションは以下の通りである。
・VRプラットフォーム用アプリ「kokomo」(ココモ)
「kokomo」は、手軽な機材でリアルな実写映像による仮想空間上の対面コミュニケーションを実現するVRプラットフォーム用のアプリである。スマートフォンで撮影した映像からユーザーの姿を実写で仮想空間に再現し、VRヘッドセットを用いて仮想空間内で相手や周囲を3Dで見ながらビデオ通話を行うことができる(「ImmersiveCall」)というもの。
他社のVRにありがちなアバターではなく、実写にこだわっていることがポイント。展示ブースでは遠隔地にいる『Knock at the Cabin』の劇中の人物と実写等身大で対峙しているような臨場感のあるコミュニケーションを体験できるようになっていた。