こうしたCES主催者側の狙いに呼応する形で、基調講演やメディア向けの記者会見で自社の明確な「パーパス」を表明し、サステナビリティ活動と先端技術のイノベーションを両立させた具体的な取り組みを多くの企業がアピールした。

 今回の前編では、こういった活動を通じて企業ブランド価値を大いに高めることに成功した企業、具体的には基調講演に登壇したジョンディアと、記者会見と展示で爪痕を残したボッシュ、キヤノンUSAの取り組みを紹介したい。

 これら企業の共通点は最先端テックを盛り込んだ、サステイナブルな具体的な製品やソリューションを有言実行の形で発表し、テクノロジーが世界をより良くするために何ができるかに焦点を当てていることだ。そして主催者CTAからも「CESベスト・オブ・イノベーションアワード」の授与という形で高く評価されていることである。

サステナビリティと事業成長の両立へ、変わるジョンディアの「なりわい」

 1837年に創業し、200年近くもアメリカの農業に向き合ってきた老舗企業であるジョンディア。農業関連の企業の経営トップがCESの基調講演に登壇するのは初めてという。

 ジョン・メイCEOはゆっくりだが力強い英語で、自社のパーパスは「リアルな目的、リアルな技術、リアルなインパクトを大切にすることである」と表明し、その上で、世界的な人口増に対応するために農業は現在よりも50%の増産が必要であること、そして農業従事者に寄り添い、経済的・効率的で、なおかつ環境負荷を抑えたサステイナブルな農業を実現するためにはテクノロジーの力が不可欠であることを強調した。

農業関連企業の経営トップとしてCESに史上初の登壇を果たしたジョンディアのジョン・メイChairman & CEO(出所:CES/tech)

 そしてこうした取り組みから必然的にジョンディアの「なりわい」はすでに「農機具のメーカー」ではなく「ロボティクスとAIカンパニー」へと変化していることにも言及した。

 具体的な最先端テクノロジーとして、農作物の種子が地面に撒かれた瞬間に正確に散布することで液体肥料の量を大幅に削減できる技術「Exact Shot」と、雑草をAIカメラでスキャンして認識し、対象の雑草のみを狙って農薬を散布、環境負荷を軽減する「See & Spray」という最先端技術について映像を駆使してわかりやすくプレゼンした。

 ジョンディアの「Exact Shot」と「See & Spray」を装備した自動運転トラクターはCTAから「CESベスト・オブ・イノベーションアワード」を授与された。しかし、ジョンディアの企業として真価は革新的なハードウェアだけにあるのではない。データ解析やドローン技術を活用して農地の効率化を図るとともに、AIを駆使してさまざまな農機具を効果的に連動させ、農作業オペレーションの改善を提案して農家の収益向上と省力化を実現するソリューションを農業従事者の目線でコンサルティングする。

 今回の基調講演では、プレゼン映像で登場した実際の農業従事者数名が会場の最前列に招待されていた。ジョンディアの使命は農機具を売り切って終わりではない。売ってからの農業従事者との関係構築こそが重要なのだ。効率的でサステイナブルな農業生産を実現するための農家との共創活動が「ロボティクスとAIカンパニー」へと進化したジョンディアの目指す姿だとすると、農家からの熱い支持と深い信頼を得ていることも納得できた。

ジョンディアの「See & Spray」。長く伸びたアームには雑草をAIカメラやセンサーで検知してピンポイントで農薬を噴霧する仕掛けがある(出所:CES.tech。右下の拡大写真は筆者撮影)

ヘルスケア業界でも存在感、人の命と健康を守るボッシュの「MEMSセンサー」

 ボッシュの起源は、1886年にロバート・ボッシュ(1861~1942年)がドイツのシュトゥットガルトに設立した「精密機器と電気技術作業場」に遡る。近年はモビリティソリューションズ、産業機器テクノロジー、家電などの消費財、エネルギー・ビルディングテクノロジーの4事業セクター体制で運営されているが、DXの時代に突入してIoTテクノロジー(スマートホーム、インダストリー4.0、コネクテッドモビリティなど)のソリューションに勝機があることを確信すると、自社が得意とするセンサー技術、ソフトウエア技術、「Bosch IoT Cloud」を活かして、さまざまな分野にまたがる「ネットワークソリューション」を推進しており、その進化の足取りを速めている。