新たなビジネス、テクノロジーを生み出し、社会にイノベーションを起こすためには「常識や想像を 超えたアイデア」が必要だ。それでは、アイデアはどのように創出するのだろうか。思いつきの言語化から組み立て方、インプット、そしてアイデアの方向転換まで、『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』の著者である東京大学大学院情報学環教授・ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長の暦本純一氏が、実践的なアイデア創出の方法を伝授する。
※本コンテンツは、2022年12月1日に開催されたJBpress主催/JDIR「第15回DXフォーラム 組織を変える、社会が変わる。DXのその先へ。 DAY2」の基調講演「妄想する頭 思考する手~人間拡張技術の提唱者が実践するアイディア創出法~」の内容を採録したものです。
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「まず、1行のClaimにせよ」言語は“最強”の思考ツール
東京大学大学院情報学環教授であり、ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長/フェロー/京都研究室室長の暦本純一氏は、人間のユーザーインターフェースに関する研究に携わり、スマートフォンのマルチタッチにつながる技術、「SmartSkin(スマートスキン)」の発明者でもある。2021年には『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(祥伝社)を上梓し、自身の経験を踏まえた新たなアイデア創出方法を紹介した。
暦本氏が挙げるアイデア創出法の3つの要素は、「言語化」「インプット」「Pivot(ピボット:回転軸)」だ。「新しいアイデアを聞いて『自分も同じことを考えていた』という人がいます。しかし、本当に思いついていたでしょうか。外部化して人に伝えない限りは、アイデアかどうか分からないものです」と暦本氏。外部化するための最も簡単な手段が、言語化だという。
明確に言語化するためには「Claim(クレイム)」にするとよい。これは特許出願時の請求事項を記した短い文章や、科学技術論文中の正誤を客観的に判定できる言明を指す言葉だ。例えば「DNAは2重螺旋の立体構造を持つ」「上腕筋肉に電気刺激を与えると指が動く」といったものがそれに当たる。一方で「視線情報を用いたライフログの研究をする」「膨大なオープンデータを効率的に検索する」「〇〇に関する 新しい手法を提案する」などは、単に研究領域を述べたものや具体性を欠くものであり、Claimとはいえない。
1行に集約できるClaimにすることで、アイデアの良否が判断できるようになり、人に印象を残すことができる。例えば黒澤明監督の映画は、全てClaim化されているために、テーマが明確で最後までブレない。またカーネギーメロン大学の金出武雄教授は、「不確実は許すが曖昧さは許さない」という言葉で、目標とする課題を具体的に設定することの大切さを語っているという。
問いかけから始まる「リサーチクエスチョン型のClaim」もある。問いかけそのものに驚きがあり、正誤を確認する方法があれば成り立つ。暦本氏はその例として、1970年代に雑誌『暮しの手帖』の「天ぷら油とサラダ油は、同じものではないか」と問いかけた記事を紹介した。「実際に成分分析をしたところ、本当に同じだったそうです。それなのに、サラダ油のほうが高い値段で売られていることを明らかにしました。非常に面白いClaimです」