医療情報の活用がもたらす価値と未来を共有し、実現するために

 パネルディスカッションには、プレゼンテーションを終えた古井氏、山元氏、西村氏と、モデレーターとして中外製薬 デジタルトランスフォーメーションユニット デジタル戦略推進部長の中西義人氏が登壇。医療情報の活用が目指すゴール、そのための課題について、それぞれの立場から語った。

左から古井祐司氏、山元雄太氏、西村秀隆氏、中西義人氏

中西 医療情報の活用で目指す世界とはどのようなものでしょうか。また、そのためのハードルはどのようなことですか。

西村 目指すところは「医療情報が共有されて使われていくこと」に尽きます。そのために2つ大きなハードルがあると思っています。1つは医療情報が個人情報であること、もう1つは、実際に医療現場の人が使えるようにできるか、です。

中西 個人情報に関する安心・安全や、医療現場の声を集めることは、地域でなら実現しやすい面がありますね。その成功を、全国にスケールするためには何が必要でしょうか。

古井 確かに患者と主治医の関係、限られた地域の中では、情報共有のメリットは感じやすいと思います。それを広げるためには「一般化」が必要です。例えば、診療を自ら中断して重症化を招いてしまう患者が一定数います。そうしたデータを地域で共有して患者に介入すれば、患者自身にも医療最適化にもメリットが生まれます。そのメリットは全国の規模にするとどのくらいか。進める上での課題は何か。こうしたことを明文化すれば、ステークホルダーの合意を形成できると思います。

西村 大きな仕組みは国がつくりますが、事例は現場でなければつくれません。今の事例や、先のプレゼンテーションで示された事例、皆が効果を実感できる成功事例を積み重ねて、広げていくしかないですね。

山元 データそのものではなく、データの用途に価値があります。個別化医療であったり、将来の医薬品開発であったり、医療サービスが安くなったり。エコシステムの中でデータの用途が変わっていくことで、さまざまな価値を生み出せると思います。皆がそのゴールを向いていれば、時間はかかっても実現できるのではないでしょうか。

中西 ゴールを目指す中で、立場によって食い違ってくることもありますか。

古井 例えば、薬剤の価格が下がることは医療費削減に貢献しますが、一方で医療産業の資金力を削り、成長を阻害する面があります。さまざまな分野を横断的に考えること、立場の違う者同士のコミュニケーションが必要だと思います。

中西 データを提供する個人としてのメリット、費用対効果はどうでしょうか。

古井 データヘルスの取り組みの中で、利用者は「自分のデータが周囲の役に立つ」ということに驚いていました。体験を通じて、自分のデータが社会課題の解決につながると考えると、費用対効果が格段に上がる、実を結ぶところが増えてくると思います。

山元 ビジネスとして考えたときに、データを提供する個人とデータプロバイダーのメリットが一致している事例の最たるものが「Google Map」です。Googleは個人に無料で大きな利便性を提供し、代わりにビッグデータを得ています。医療においても、ユーザーに対してデータの価値を還元する方法に、どこまでチャレンジできるかが課題だと思います。

中西 国として、医療機関や民間企業、個人に望むことはありますか。

西村 おそらく、全ての人が医療情報活用の可能性を感じていると思います。ただ、その費用対効果の中には、例えば、創薬のように非常に時間がかかり、見えにくいものも多くあります。医療情報が世界を変えることは間違いありませんので、それぞれの立場で、その可能性をイメージしていただくことで、大きなムーブメントが起こせると考えています。