なぜVARで「ミリ単位」のライン判定が可能になったのか

 だが、2018年のロシア大会のように複数カメラの「映像」のみに頼った判定では、最終的な判定の確定は審判(生身の人間)の視覚に頼るしかない。慎重を期すあまり、判定のホイッスルを吹くまでに時間がかかりすぎてしまう、という欠点があった。

 今回のカタール・ワールドカップではこの欠点を克服するため、スタジアムに設置された12台の高性能カメラに加えて、ドイツ(注)のIoTソフトのスタートアップ、キネクソン(KINEXON)の「ボールトラッキング技術」を採用したコネクテッドボール(IoTサッカーボール)を導入している。

(注) 11月23日の日本対ドイツ戦でも、ドイツはVARでオフサイドの判定を受け得点機を逃した。ドイツ企業が開発した技術によって、結果的にドイツが予選リーグ敗退に追い込まれたことは何とも皮肉な運命である。

 キネクソンがアディダスと共同した公式球には、20個以上のセンサーチップが内蔵されており、それらはワイヤレス充電が可能だという。そして、より高度な判断を可能にするために、以下の3つの技術が活用されている。

「LPS」位置測位システムでボールの正確な位置を測定
「IMU」慣性センサーで3軸の細かな動きを追跡
「UWB」高速通信技術を用いたリアルタイムデータ通信

 このうちIMUは、ボールの正確な位置を測定するための信号を1秒間に50回発信しており、IMUとフィールドの外周(観客席最前列前)に設置されたアンテナとの連動によって、0.1ミリ単位でゴールラインにボールがかかっているか否かを計測することができる。

ドイツのIoTスタートアップ、キネクソンとアディダスが開発したコネクテッドボールの断面。ワイヤレス充電が可能だ(出所:アディダスのウェブサイト