「場」つくりの思想を持つことが実践的な仕事にも必要

 今回は、総務ファシリティマネジメント(FM)業務や現場の日常仕事で日々、忙殺される中、いかにしてわくわく「場」をプロデュースしていくかという実践的な話をしたいと思います。

 筆者がデジタルエンタテイメント業で「場」つくり総務の仕事を13年間携わり、その後のHLD Labでの活動を続けながら新たに見えてきた思想、言い換えれば「世界観」があります。少し仰々しい表現となりますが、その世界観とは『社会幸福(人類善)の実現に向けたさまざまな仕掛けや仕組み、人間社会に不可欠な「愛」の時空創造の具体的施策の有効性を仮説検証しながら、それを絶えず継続していくこと』と思っています。

 今回は、この実現のために具体的にどのようなアプローチをしていけばよいのかをお話ししましょう。

 筆者は「場」の主体(主人公)は人間であると考えています。「場」で働き、暮らす人々が何を「感じ」、どのような「想い」を持って行動し、価値創造活動に勤しんでいるのかは、一見、本人しか分からないと思われるかもしれません。

 しかしながら、複雑系生命体としての人間とはいえ、一定の環境条件の下ではさまざまな「共通点」を持っているものです。人間誰もがうれしいことがあれば喜び、おいしい食事を楽しむ時は笑顔となり、きれいな景色を観れば感動・感激し、そして人に優しくしてもらえたときには安心し、一方で人から批判や非難されると怒りや悲しみを抱くもの。

 でも、その感性や感受性の程度はさまざまであり、全ての人々は一様ではなく「個性」があります。要は、人間は多様で複雑な生命体ではあるものの、生きている「存在」において共通項を示す傾向があると言えます。

 つまり、どのような状況であれば、いかなる行動や反応を示す傾向があるのかを「予見・予知」し、加えて「個性」の要素を推察しながら「場」への仕掛けを講じていくことの「有効性」を仮説検証していければ、「場」つくりの練度と洗練度は高めていくことが可能なわけです。

 そのためには、やはり『人間を徹底的に知る努力をすること』が不可欠です。

 人間考察をしてみましょう。地球時計から見た「ホモ・サピエンス」登場は23時59分58秒! たった2秒の世界とはいえ、数十万年の時は膨大な時間であり、それでも現代人が、かくも文明的な暮らしをしていることは奇跡と言えます。

 ダーウィンいわく「最も強い種が生き残るのではなく,最も賢い種が生き延びるでもない。唯一生き残るのは,変化に対応できる種である」とは未来の人類への示唆でもあります。

 ベストセラーとなったイスラエルの歴史家、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史;文明の構造と人類の幸福』と『ホモ・デウス』は、知的好奇心を刺激してくれる本で、人間を知る手掛かりとなるヒントが満載されています。

 筆者は本書に「場」つくり思考の根幹を成す思想に通じるものがあると感じています。本書から少し紹介してみましょう。

 本書は「歴史」の解説にとどまっていないことから、人類にとっての「歴史」の意味がより深く認識、理解できます。

 生物としての「人類」は、生き延びていくために進化してきました。多種を排除し支配する本能的な意識変移と、科学という「人類知の結実」が人類意識の順応力を超越したスピードで社会常識を飛躍させている結果、人類は不安を抱えたとても危険な種になっているとの示唆は合点するところです。

 超ホモ・サピエンス(シンギュラリティ)は科学技術だけでは語ることはできず、人間学としての哲学、心理学、社会学などリベラルアーツを学ぶことの重要さへの示唆が、本書には詰め込まれています。

 「サバンナの負け犬だったわれわれサピエンスが今の繁栄を築いたのは妄想力のおかげ」という主題には納得感があります。この「脳力」により霊長類のイニシアチブをとり、資本主義隆盛までの大イベントを語り尽くしています。「農業は史上最大の詐欺」という奇を衒(てら)ったような主張も、種の繁栄か個の幸福かという重たいテーマを考える糸口になります。

 今回、あえて、冒頭に本書を紹介した意図は、人類の歴史を振り返ることが「人間を知る」手掛かりになるということです。

 実務書が解説しているハウツー知識も有用ではありますが、ホモ・サピエンス人類視点から「場」とは何かを考え、「場」をどのように創造していけば「人類の共通善」に資することとなり、結果、私たちの「幸福」につながっていくかの思考と考察が不可欠と考えています。いわば、「場」つくりの思想を持ち合わせていくことが実践的な仕事にも必要ではないかとの思いです。

 そのための有用な修得手段があります。それは人文科学系をはじめ、さまざまなジャンルの本を読むことです。「場」つくりの探究と探索に不可欠な、知識情報と擬似体験の経験値を習得することができます。